Goodな生活

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2017年新卒で民間シンクタンク入社。学んだこと、読んだもの、考えたことの記録

【Mostly Harmless Econometrics Ch.3.4.2】COP効果

はじめに

この記事では、平均処置効果の構成要素の一つであるCOP効果(Conditional on Positive Effects)を扱います。内容はJoshua D. Angrist & Jorn-steffen Pischke (2008)『Mostly Harmless Econometrics』Ch.3.4.2"Limited Dependent Variables and Marginal Effects"を参考にしています。

良いCOP、悪いCOP

前回の記事では、平均処置効果(Average Treatment Effect;ATE)を参加効果(Participation effect)とCOP(Condition on Positive)効果とに分解しました。支出のような非負の確率変数の効果の推定は、これら二つの部分を別々に観察すべきだと主張する研究者もいます。実際に多くの研究者が「2部構成のモデル」を使用しており、参加効果とCOP効果を評価しています。(脚注 Duran et al. 1983)「2部構成のモデル」の問題点は、例えRCTが行われた場合であっても、COP効果は因果関係を意味しないことです。これはCh.3.2.3で提起された、セレクションバイアスに対処するために良くないコントロール変数の議論と同様です。COP効果を分析するために、次のようにb分解します。



\begin{eqnarray}

E[Y_i|Y_i > 0,D_i = 1]- E[Y_i|Y_i >0,D_i = 0] &=& E[Y_{1i}|Y_{1i} > 0 ]-E[Y_{0i}|Y_{0i} >0] \\ \\
                                       &=&  \underbrace{\left\{ E[Y_{1i}-Y_{0i} |Y_{1i} > 0 ]  \right\}}_{Causal \, effect} +  \underbrace{\left\{E[Y_{0i}|Y_{1i} > 0] - E[Y_{0i}|Y_{0i} >0]\right\}}_{Selection \, bias}  \tag{1}
\end{eqnarray}


COP 効果もまた、 2 つの項に分解されることがわかります。それは、保険が無料の場合に医療サービスを利用するグループに対する因果効果と、無料の場合に医療サービスを利用するグループと有料の場合(自己負担の発生する場合)に医療サービスを利用するグループ間の Y_{0i} の差です。第2項はセレクションバイアスの一種ですが、Ch.2のセレクションバイアスと比べるとやや曖昧なものです。

ここでは、医療保険実験が支出が正のグループの構成を変化させるため、セレクションバイアスが発生します。Y_{0i} > 0のグループには、仮にディダクティブルグループになり控除額を支払わなければならなくなった場合に医療サービスを受けることを止めてしまう人が含まれています。言い換えれば、このグループはY_{1i} > 0 のグループよりも規模が大きく、Y_1i > 0と比べた平均的な医療費支出も小さいです。したがって、セレクションバイアスの項は正であり、その結果、COP効果は負の因果効果E[Y_{1i} - Y_{0i} |Y_{1i} > 0]よりもゼロに近くなります。これはCh.3.2.3の良くないコントロール変数の一種です。因果関係の設定ではY_i > 0 はアウトカム変数であり、したがって条件付けは、処置が Y_iが正である可能性に影響を及ぼさない場合を除きます。

COP効果の非因果性に対する一つの解決策は、Tobitのような打ち切り回帰モデルを用いることです。これらのモデルは、非参加者の潜在的な支出アウトカムを仮定します(Hay and Olsen, 1984)。支出問題に対する伝統的なTobitの定式は、観察された被説明変数Y_i



\begin{eqnarray}

Y_i = 1[Y_i^* > 0]Y_i^* \tag{2}

\end{eqnarray}


(2)のように作られています。Y_i^*は負の値をとることができ、正規分布に従う潜在支出変数(latent expenditure variable)です。Y_i^*はLDVではないため、Tobit支持者は、これを伝統的な線形モデル、例えばD_iの関数として表すことを好みます。この場合、β_1^*は潜在支出Y_iに対するD_iの因果効果です。(2)はY_iが正であろうとなかろうと、すべての観察データに対して定義されます。Y_i^*に対する効果を研究することに満足していれば、COP的な選択問題は存在しません。

しかし、今回の場合はY_i^*に対する効果を把握するのにいくつかの問題があります。まず第1に、「潜在的な医療費」が不可解な構成であるということです。一部の人にとっては、医療費は本当にゼロです。これは統計から得られた結果でも、検閲のため得られた結果でもありません。このように、潜在的に負のY_i^*という概念は理解しがたいものです。Y_i^*に関するデータは今後とも存在しないものです。第2に、潜在モデルのパラメータβ_1^*と、観察されたアウトカムY_iに対する因果効果との間のつながりが、潜在変数に関する分布の仮定に依存していることです。このつながりを確立するため、Y_iD_iによる条件付き期待値を求めます。


\begin{eqnarray}


E[Y_i|D_i] = Φ\left[ \frac{β_0^*+β_1^*}{σ_v} \right] [β_0^*+β_1^* D_i] + σ_v φ\left[ \frac{β_0^*+β_1^* D_i}{σ_v}\right] \tag{3}

\end{eqnarray}


ここでσv_i標準偏差です(脚注)。(3)はv_iの正規性と均一分散性、そしてY_iが(2)で表されるという仮定に基づいています。

Tobit CEFは、観察された支出に対する医療保険の効果(処置効果)の影響を表します。具体的には、


\begin{eqnarray}

E[Y_i|D_i=1]-E[Y_i|D_i=0] &=& \left\{ Φ\left[\frac{β_0^*+β_1^*}{σ_v}\right] [β_0^* + β_1^*] + σφ\left[ \frac{β_0^* + β_1^*}{σ_v}\right] \right\} \\ \\
 &-&  \left\{Φ\left[\frac{β_0}{σ_v}\right][β_0^*] + σ_vφ\left[\frac{β_0^*}{σ_v}\right] \right\} \tag{4}

\end{eqnarray}

というかなり厄介な式です。しかし、唯一の条件付け変数はダミー変数D_iなので、E[Y_i|D_i = 1] - E[Y_i |D_i = 0]の推定には他の変数は必要ありません。[tex:Y_iD_iに回帰した線形回帰の回帰係数は、Tobitモデルを採用しようとしまいと(4)の左辺のCEFを表します。

COP効果は、アウトカム変数の分布に質量点がある場合、つまりゼロのような特定の値が積み重なっている場合、あるいは分布に大きく偏りがある場合、あるいはその両方がある場合、平均値に対する効果の分析は何かを見逃しているという研究者の感覚によって動機付けられることがあります。平均値の効果の分析は、実際に、特定の値の確率の変化や、中央値から離れた分数点のシフトなどを見逃してしまいます。それではなぜこれらの分布の効果を直接観察しないのでしょうか。COP 効果に代わる賢明な方法は、分布または分布数への効果を直接見ることです。アウトカム変数の分布には、年間医療費がゼロを超える可能性、100ドルを超える可能性、200ドルを超える可能性などが含まれます。これにより、推定したい回帰の左辺には、c]の選択が異なる場合、1[Y_i > c\\が配置されます。 経済学的には、これらの結果はすべて式(5)の範疇にあります。線形確率モデル(Linear Probability Model)を用いて分布効果を直接見るという考え方は、Angrist (2001)(脚注)が、出産が労働時間に与える影響の分析で説明しています。別の方法として、分数が焦点となる場合は、分点位回帰(quantile regression)を使ってモデル化することもできます。Ch.7では、この考え方について詳細に議論しています。


(3.4.2)再掲


トビット型の潜在変数モデルは、扱う観察データが「打ち切り」をされているならば意味があります。本当のの打ち切りは、潜在変数が、主な関心のあるアウトカムである経験的な対応を持っていることを意味します。労働経済学の代表的な例は、CPSの収益データで、回答者の機密性を保護するために収益の非常に高い値をトップコード化(検閲)しています。一般的に、私たちが関心を持っているのは、CPSでトップコード化された所得ではなく、回答者の納税申告書に記載されている所得に対する学校教育の因果関係です。Chamberlain (1994)(脚注)は、ある年には、CPSのトップコード化によって、学校教育へのリターンの測定値が大幅に減少することを示し、分位回帰のTobitスタイルへの適応に基づいた打ち切りの調整を提案しています。打ち切りデータをモデル化するための分位回帰の使用については、第7章でも議論されています。

参考文献

Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion

Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion

【Mostly Harmless Econometrics Ch.3.4.2】制限従属変数

はじめに

この記事では制限従属変数(Limited Dependent Variable;LDV)を扱います。内容はJoshua D. Angrist & Jorn-steffen Pischke (2008)『Mostly Harmless Econometrics』Ch.3.4.2"Limited Dependent Variables and Marginal Effects"を参考にしています。

制限従属変数とは

分析対象となる被説明変数(従属変数)が限られた範囲の値しか取らない場合、これを制限従属変数(Limited Dependent Variable;LDV)と呼びます。例えばAngrist and Evans(1998)*1は、出生率が女性の労働参加に与える影響を分析しました。「女性は子供をたくさん持つと外で働かなくなるのか」という仮説の検証です。しかし、出生率と女性の労働参加は同時決定的であり、就労機会に恵まれない女性が多くの子供をもつ、というセレクションバイアスが生じる可能性があります。Angrist and Evans(1998)は、二人以上子供をもつ夫婦もしくは母親を対象にし、二つの操作変数を用いました。一つは、第一子と第二子の性別が異なるか否かを示すダミー変数(sibling sex composition)です。二つ目は、双子の出産有無を示すダミー変数(multiple birth)です。いずれも労働参加(被説明変数)とは独立し、出生率(説明変数)とは相関のあると考えられる変数です。この研究で用いられた識別のうち大半は、従属変数が二値(失業状態の有無)または非負(労働時間、賃金)でした。多くの計量経済学の教科書では、従属変数が制限従属変数の場合には、線形回帰は不適合であり、プロビット・モデル(Probit model)やトービット・モデル(Tobit model)を用いるべきだと説明されています。一方で、線形回帰こそがCEFの真っ当な近似だと考えると、必ずしも制限従属変数モデルを中心に識別を考える必要はありません。

RAND医療保険実験

この識別の問題を検討するベンチマークとして、RCTの有名な事例であるRAND医療保険実験(RAND Health Insurance Experiment;HIE)を取り上げます。この野心的な実験では、実験のために民間医療保険会社が設立され、無作為に選ばれた参加者は医療保険に加入することができました。医療保険の特徴は、自己負担割合によって様々なプランが用意されたことです。自己負担がまったくゼロ、他には共同支払いやディダクティブル*2など、ポケットマネーを支出するものが用意されました。実験の目的は、自己負担割合の大小が、受診行動や健康状態に与える影響を明らかにすることです。HIEの結果、自己負担割合が低い参加者ほど受診行動が増加する一方、健康状態には影響を与えないことが明らかになりました。この実験結果は保険プランの設計等に示唆を与えるものとなりました。

RAND医療保険実験(HIE)のアウトカムのほとんどは制限従属変数(LDV)です。これらは医療費の発生有無、入院有無、または外来診療の回数や年間の総医療費支出などです。下表は、HIEの処置群(HIE treatment group)のうち、自己負担が無料のグループ(Free)と、支払いが必要なディダクィテブルのグループ(Individual Deductible)の2つの群の結果です。ディダクテブルのグループは、外来診療のために一人当たり年間150ドル、または家族当たり年間450ドルの前払いが必要でした(入院費は含まず)。

Face to Face Visits Outpatient Expense($) Admissions(%) Prob. Any medical(%) Prob. Any Inpatient(%) Total Expense(%)
無料グループ
4.55
340
12.8
86.8
10.3
749
ディダクティブルグループ
3.02
235
11.5
72.3
9.6
608

表は、Manning et al.(1987) *3に基づき、2つのグループの平均アウトカム(average outcome)を示しています。

LDVの議論を簡単にするため、無料のグループとディダクテブルのグループがランダムに割り当てられたとします。D_i = 1がディダクテブルグループへの割当を表します。D_i=1D_i=0の平均値の差は、割り当ての因果効果(the unconditional average treatment effect)を表します。なぜならRCTの節の議論と同様に、割り当てD_iは潜在結果とは独立だからです。



\begin{eqnarray}
E[Y_i|D_i=1] - E[Y_i|D_i=0] &=& E[Y_{1i}|D_i=1] - E[Y_{0i}|D_i=0] \\  \\  
                                               &=& E[Y_{1i}-Y_{0i}]  \tag{1}
\end{eqnarray}


(1)は、実験における因果効果の推定は、Y_iが二値であろうと、非負であろうと、連続的に分布していようと、特別な課題はないことを表します。右辺の解釈は従属変数の種類によって変わりますが、平均処置効果(Average Treatment Effect;ATE)を得るために特別なことをする必要はありません。例えば、HIEのアウトカムの1つには、医療費の支出有無を表すダミーがあり、これは二項確率変数(ベルヌーイ試行)なので、以下のようにATEを表すことができます。



\begin{eqnarray}
E[Y_{1i}-Y_{0i}] &=& E[Y_{1i}]-E[Y_{0i}] \\ \\
       &=& P[Y_{1i}=1] -P[Y_{0i}=1] \tag{2}
\end{eqnarray}


(1)の左辺のグループ間の比較を観察するため、表内のProb Any Medical[%](いずれかの外来診察確率)に注目します。無料のグループの87%が何らかの医療サービスを利用したのに対し、ディダクティブルグループでは72%しか医療サービスを利用していません。したがって、ディダクティブルグループは150ドルの前払いを行っていましたが、これは医療サービスの利用率に顕著な影響を与えていました。2つのグループの確率の差0.15(標準偏差 = 0.017)は、Y_iを医療費支出の有無を示すダミー変数とした場合のE[Y_{1i}-Y_{0i}]の推定値です。ここでのアウトカム変数はダミー変数なので、平均処置関係はまた医療サービスの利用率に対する因果関係でもあります。

プロビット・モデルを用いた推定

アウトカム変数が確率であることを踏まえ、CEFを近似するために線形回帰ではなく、プロビット・モデルを用いるとします。プロビット・モデルでは割り当ては、以下を満たす潜在変数(latent variable)Y_i^*によって決定されるという仮定に基づきます。



\begin{eqnarray}
Y_i^* =  β_0^* + β_1^* D_i - v_i \tag{3}
\end{eqnarray}


v_iは平均0,分散σ^2正規分布に従います。この変数は実際には医療費支出を表さないことに注意が必要です。支出は非負である一方、正規分布する変数は負にもなりえます。潜在変数のインデックスモデルを所与とすると、



\begin{eqnarray}
Y_i = 1[Y_i* > 0] \tag{4}
\end{eqnarray}


CEFは以下のように表されます。Φ正規分布の累積密度関数です。したがって



\begin{eqnarray}
E[Y_i|D_i] &=& Φ\left[\frac{β_0^* + β_1^* D_i}{σ} \right] \tag{5} \\
                  &=& Φ\left[\frac{β_0^* }{σ} \right] + \left\{ Φ \left[\frac{β_0^*+β_1^*}{σ}  \right] - Φ \left[\frac{β_0^*}{σ}  \right] \right\} D_i \tag{6}
\end{eqnarray}


これは説明変数D_iの線形関数であり、Y_iD_iに回帰した係数はプロビット・モデルの予測値(Probit fitted value)の差分です。しかしながら、プロビット係数は、正規分布の累積密度関数にそれらを代入しない限りは、D_iY_iに与える影響の大きさについて何ら情報を持ちません。

平均処置効果の分解

HIEで最も重要なアウトカムの一つは、総医療費です。ディダクテブルグループは医療サービスの利用に加えて医療費支出も少なかったのでしょうか。HIEの結果からは、無料のグループとディダクテブルグループの医療費支出の平均値の差は141ドル(標準偏差=6.0)この計算からは、(推定値は正確でないにしろ)自己負担割合を高めることで総医療費を削減できる、という示唆が得られます。

なぜなら、支出のアウトカムは非負の確率変数であり、時にはゼロに等しいこともあるからです。支出の期待値は、



\begin{eqnarray}
E[Y_i|D_i] &=& E[Y_i|Y_i > 0, D_i]P[Y_i > 0|D_i] \tag{7}
\end{eqnarray}


グループ間の支出アウトカムの差は、以下のように表されます。




\begin{eqnarray}
E[Y_i|D_i = 1]- E[Y_i|D_i = 0] &=& E[Y_i|Y_i > 0, D_i=1]P[Y_i > 0|D_i=1]-E[Y_i|Y_i >0, D_i=0]P[Y_i >0 |D_i =0] \\ \\
                                       &=&  \underbrace{\left\{ P[Y_i > 0|D_i =1] - P[Y_i >0|D_i=0]  \right\}}_{Participation \, effect} E[Y_i|Y_i >0 ,D_i=1] \\ \\ 
                                       &+& \underbrace{E[Y_i|Y_i > 0,D_i =1] - E[Y_i|Y_i >0,D_i=0]}_{COP \, effect}P[Y_i >0 ,D_i=0]  \tag{8}
\end{eqnarray}


したがってグループ間の支出アウトカムの差は、2つの部分に分割することができます。一つは、支出が正になる確率のグループ間での差(参加効果(Participation effect))、支出が正になるという条件付き期待値の差(COP効果(conditional on positive))です。しかしこれは因果効果の推定において特別な意味を持つ訳ではありません。(1)を推定することは依然として必要であり、Y_iD_iへの回帰により母集団平均処置効果を得ることができます。次回はこのCOP効果について更に詳しく見ていきます。

参考文献

Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion

Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion

*1:Angrist, Joshua D & Evans, William N, 1998. "Children and Their Parents' Labor Supply: Evidence from Exogenous Variation in Family Size," American Economic Review, American Economic Association, vol. 88(3), pages 450-477, June.

*2:米国の保険の一種であり、被保険者が一定金額(免責金額)を支払った後に初めて保険会社がサービスを開始する仕組み

*3:Manning, Willard G, et al, (1987), Health Insurance and the Demand for Medical Care: Evidence from a Randomized Experiment, American Economic Review, 77, (3), 251-77

【Mostly Harmless Econometrics Ch.3.4.1】重み付け回帰

はじめに

この記事では重み付け回帰(加重回帰;weighting regression)を扱います。詳細には踏み込まず、簡単な説明に留めます。内容はJoshua D. Angrist & Jorn-steffen Pischke (2008)『Mostly Harmless Econometrics』Ch.3.4.1"Weighting Regression"を参考にしています。

重み付け回帰の経験則

最もシンプルな重み付けの考え方は、推定する回帰(the regression you are estimating)と推定したい母関数(the population target you are trying to estimate)が等しくなるように、説明変数に重みを付けるというものです。例えば、推定対象(estimand)が母回帰関数であり、推定に用いられる標本が、標本iが生起する確率の逆数と等しい重みw_iをもつ場合、w_iによって重みを付けた加重最小二乗法(weighted least squares;WLS)を使用することができます。確率の逆数による重み付けにより、推定に用いる標本が確率変数ではない場合にも、一致推定量を得ることができます。

関連する重み付けの考え方として、グループ化されたデータが挙げられます。β=E[X_{i}X'_{i}]^{-1}E[X_{i}Y_{i}]を推定するため、Y_iからX_iへの回帰を行うと仮定します。しかし手元には確率分布より得られた標本(マイクロデータ)ではなく、X_iでグループ化されたデータがあります。したがって、すべてのxについてE[Y_i|X_i=x]の推定値を求めることになります。この平均を\overline{y}_xxの相対度数(relative frequency)n_x / Nと仮定します。Ch.3.1.2で確認したようにn_xで重みづけた\overline{y}_xからxへの回帰は、マイクロデータを用いた回帰と同じ推定量が得られます。したがって、マイクロデータを用いた回帰分析を行う場合、グループサイズで重みを付けた回帰を行っても同じ推定が可能です。ただし、一人当たり所得等の公開データつまり平均値を使用し、基礎となるマイクロデータを無視することに慣れているマクロ経済学者は、この考えに反対し、重み付けを行わない集計データの分析を好むその分野の慣行を守るかもしれません。

不均一分散への対処としての重み付け

その一方で、重み付けの根拠が不均一分散(heteroskedasticity)への対処である場合、計量経済学者もマクロ経済学者ほど重み付けを好意的に用いる訳ではありません。不均一分散下での重み付けの議論は大雑把には以下のようなものです。線形CEF、E[Y_i|X_i]=X_i'βに関心があるとします。誤差項e_i=Y_i-X_i'βは不均一です。つまり条件付き分散E[e_i^2|X_i]は定数ではありません。この場合、母回帰関数は依然としてE[X_{i}X'_{i}]^{-1}E[X_{i}Y_{i}]と等しいものの、標本対応(sample analogue)は効率的ではありません(inefficient)。より正確な線形CEFの推定量は、条件付き分散の逆数の推定値で重みを付けた加重最小二乗法によって得られます。

Ch.3.1.3で説明した通り、生来的に(inherently)不均一分散となるのは、Y_iがダミー変数である線形確率モデル(Linear Probability Model;LPM)の場合です。CEFが線形だと仮定することで、飽和回帰モデル(saturated)であるかのように扱うことができ、P[Y_i=1|X_i]=X'_{i}β、したがってE[e_i^2|X_i]=X'_{i}β(1-X'_{i}β)となり、条件付き分散がX_iの関数となることは明らかです。これは条件付き分散の推定量が回帰関数から簡単に算出できる場合です。LPMにとっての効率的なWLS推定量は、一般化最小二乗問題(GLS)の特殊ケースであり、条件付き分散の逆数[X'_{i}β(1-X'_{i}β)]^{-1}によって重み付けされます。

なぜ不均一分散の対処にWLSを用いることが望ましくないのか

この議論は不均一分散頑健標準誤差(heteroskedasticity-consistent standard errors)を用いる場合にも当てはまります。まず初めに、E[e_i^{2}|X_{i}]の推定値はあまり良くない場合があります。 条件付き分散モデルが不十分な近似である場合、またはその推定値が非常にノイズが多い場合*1、重み付き最小二乗推定値は、重み付けされていない推定値よりも効率が悪くなる可能性があります。したがって、漸近理論に基づいた統計的推論は誤解を招く可能性があり、効率は向上しない場合があります。第二に、CEFが線形でない場合、重み付き最小二乗推定量は、重みなしの推定量よりもCEFを推定する可能性が低くなります。一方で、重みなしの推定量は、比較的解釈が簡単です。それは母集団CEFに対するMMSE(最小二乗平均誤差)線形近似だからです。

WLS推定量も近似であるものの、その性質は重みに依存します。少なくともこの重みにより、回帰結果を他の研究者の結果と比較することが難しくなり、結果の違いが重みに由来する場合は追加的な調査が必要になります。最後に、古い警告が思い浮かびます「壊れていない場合は、修正しないでください」。母回帰ベクトルの解釈は不均一分散によって変わるものではないのに、なぜそれを心配するのでしょうか。重み付けによる効率の向上はささいなものである可能性が高く、良いことよりも害を及ぼすことがあります。

補足説明

条件付き分散の逆数で重みを付けると、なぜ効率的な推定量が得られるのでしょうか。以下、山本(1995)に倣って簡単に説明します。分散の逆数で重みを付けた加重最小二乗和は、


\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^{N} \frac{1}{σ_i^2}(Y_i - α - βX_i)^2         \tag{1}
\end{eqnarray}

です。この加重最小二乗和を最小にするということはつまり、次の式の誤差項\frac{e_i}{σ_i}の二乗和の最小を求めることです。


\begin{eqnarray}
\frac{Y_i}{σ_i} = α\frac{1}{σ_i} + β\frac{X_i}{σ_i} + \frac{e_i}{σ_i}      \tag{2}
\end{eqnarray}

\frac{e_i}{σ_i}は平均0、分散σ_iに従う変数であるため、均一分散を持ちます。


\begin{eqnarray}
E \left[ \frac{e_i}{σ_i} \right] = 0     \tag{3} \\
V \left[ \frac{e_i}{σ_i} \right] =1     \tag{4}
\end{eqnarray}

ただし、この不均一分散の対処法は、あらかじめσ_i^2が既知である場合のみ使える方法であることは注意するべきです。

参考文献

Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion

Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion

計量経済学 (新経済学ライブラリ)

計量経済学 (新経済学ライブラリ)

  • 作者:山本 拓
  • 発売日: 1995/04/01
  • メディア: 単行本

*1:LPMでは、これはCEFが実際に線形ではないことを意味する場合があります

【読書メモ No.14】沈まぬ太陽

沈まぬ太陽(一~五) 合本版

沈まぬ太陽(一~五) 合本版

きっかけ

先輩と飲みに行ったときに勧められてkindle版を購入。山崎豊子作品は初めて。

感想

第一、二巻「アフリカ篇」はかなり楽しく読めた。第三巻「御巣鷹山篇」の中盤あたりから急激に熱が冷めてしまい、途中で読むのを止めてしまった。

もっと幸せになる方法があったのではないか

「アフリカ篇」では、典型的な旧型の日本企業において、組織と個の信念との間で苦しむサラリーマンの姿が描かれている。長期雇用や年功序列制等が当たり前で、転職や成果主義的な考えがまだ浸透していなかった時代の話。上司との家族ぐるみの付き合い、妻と会話に登場する人事の話、などコテコテの会社人間ぶりに辟易する部分もある。とは言え、休日にゴルフに駆り出される証券会社の知り合いの話など聞くと、まだまだこういう世界も残っているのかもしれない。組織と個人の対立は、経営層と労働組合という形で描かれる。労働組合の代表である主人公は、経営層に突き付けた要求が無理難題だと解され、共産党(アカ)のレッテルを貼られた挙句、海外支店に左遷される。しかし闘うことを止めない。組合活動に関与しなければ出世は保証される、そう上司に言わしめるほどに主人公は優秀だった。けれど闘うことを止めない。そこまでして守りたかったものは何だ、ならば闘いたかっただけではないか、という気もしてくる。不条理と戦う同志への背信とかなんとか言わず、会社を辞めるという選択肢もあったはずである。共産主義をよく知らない自分のような読者からすると、共産主義=闘争・敵対を前提にした思想かと思えてしまう。問題を解決したいのではなく、問題を作り出さないと存在価値が薄れてしまう危うさを感じる。だとするとそれはそれで虚しい。主人公はもっと幸せになる方法があったのではないか。組織に蹂躙された、というよりも、組織の中で自らの情熱の矛先をずっと探し続け、その魂が彼をナイロビやカラチに向かわせたのではないか。死に場所を探しながらついに幸せになれなかった男の話、という印象を受けた。

組織と個人の対立の構図~闘争への欲望

この本が多く読まれたということは、一見、組織と対立してしまう主人公の姿が読者の同情・シンパシーを誘ったように思える。しかし実際は、同情というよりも、組織と対立するほどに自分の信念を貫きたいけれど、そもそも信念がないまたはそれを貫く勇気が出ない読者にとっての憧れ・羨望があったのではないかと思う。誤解を恐れずに言うと、自分の信念に従い理不尽な仕打ちを受けたかった人が多かったのではないか、ということだ。ひどい仕打ちを受けたくて受けたくて仕方がなかった。左遷されて家族と引き離される主人公が心底うらやましかった。これは企業の文脈、つまり労働者と経営者に限った話ではない。家族や地域社会でも当てはまる話だと思う。要は大多数の人にとって明示的な対立は経験し難いものだからである。組織に属する多くの人は対立が生まれる過程で自然と周りに合わせるようになる。物理的な乖離や具体的な処罰など目に見える対立はなかなか得難い経験だったと解釈する方が自然ではないか。ここに、人々の潜在的な闘争への欲望を見た。現在となっては色んな言動がハラスメントと名付けられつつあり、いわば容易に、社会的な認知を武器にして組織の理不尽を糾弾することも、(労働者の)権利を主張することもできる。闘うことが簡単になってしまった。闘争への欲望は、既に充足されつつある。こんな世の中だと、闘いたいのに闘えないとか愚痴言ってる人は単なる時代遅れでしかなく、もはや同情の余地はない。この同情のできなさ、対立を楽しむまでにグズグズ時間をかける面倒くささこそ、この小説の持つ”古さ”の醍醐味ではないかと思う。

なぜ会社を辞めなかったのか、については主人公のモデルとなった小倉寛太郎氏がインタビューで答えていた。
minseikomabahongo.web.fc2.com

あと、無性にキリマンジャロに行きたくなった。

日航ジャンボ機を描くのにフィクションは必要か

日航ジャンボ機墜落事故と遺族への対応の様子が描かれている。これまでも事故のドキュメンタリーや陰謀論めいた話を聞いたことがあった。そのためか真新しい内容はなく、あえて小説という形で読まなくてもよかったかなと思う。事故現場である御巣鷹山の尾根には慰霊碑が立っており、慰霊登山ができるらしい。事故の真相はどんなものだったのか、という詮索したい気持ちに駆られてしまい、小説に集中できなくなってしまった。この部分はフィクション、ドキュメンタリーの形で見たい。

TOEFL対策用オンライン英語レビュー【Z会】【Best Teacher】

昨年から今年にかけて、会社の福利厚生制度を使ってオンライン英語サービスを受講しました。どちらもTOEFL iBTのライティング対策です。せっかくなので私見でレビューします。Z会はどちらかと言うと上級者向け、ある程度英作文力が備わった人がさらにレベルアップするための教材、ベストティーチャーはより門戸を広く、英語を楽しみながら学んでいきましょう、という印象を受けました。

それぞれ良い点はありますが、あえて軍配を上げるとするとベストティーチャーになるかと思います。それは「英語を使って英語を学ぶ」という気づき・経験ができたからです。これは自分にとっては新鮮で、続けていれば力になるなと感じました。これはTOEFL(や英検でもTOEICでもそうですが)に限らず、英語の問題を日本語で勉強する、という学校教育に慣れていた私にとっては目から鱗でした。

余談ですが、東南アジアの友人は私よりも遥かに英語ができます。彼らは母国語で英語を学んだのか、英語で英語を学んだのか。各国の英語教育の違いが気になるところです。

Z会 ベストティーチャー
コース名称 Z会キャリアアップコース TOEFL(R)writing(ハーフ) TOEFL iBT対策コース(3ヵ月)
受講期間 2019年5月-2020年3月 2020年3月-2020年6月
内容 TOEFLのWritingセクションのIndependent Writingの課題を提出し、添削を受け取る。添削を見て復習。 TOEFLのWritingセクションのIntegrated WritingとIndependent Writingの課題を提出し、添削・音声データを受け取る。
添削・音声データで復習し、外国人講師のスピーキングレッスン(Skype)を受ける。
課題の数 Independent Writing 5題 Integrated Writing 6題
Independent Writing 6題
30分のスピーキングレッスン 13回
価格 22,000円(※参考価格)
実際は社割がきいたのでもっと安い
48,000円(※参考価格)
社割がきけばもっと安くなる
スコアアップ W17(2016/06/10)
W20(2019/10/19)
W18(2020/3/14)
W22(2020/6/14)
良かった点 文法や単語のミスだけでなく、文章の構成や論理性について添削してもらえる 添削期間が短い(数時間~遅くても2日)
英語で添削してもらえる(つまり英語で英語を学べる)
マイページが使いやすい
イマイチだった点 添削期間が長い(1週間程度)
マイページが使いにくい
文法や単語のミスは指摘してもらえるが、文章の内容・意味についてはほとんど添削されない

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阿波連岬 国定公園

【読書メモ No.13】ヒルズ 挑戦する都市

ヒルズ 挑戦する都市 (朝日新書)

ヒルズ 挑戦する都市 (朝日新書)

きっかけ

先輩に勧められたもの。Kindleで購入。

メモ

著者は元経団連理事の森ビル創業者の森稔氏。都市空間作りへの想いが語られている。まだまだ理想とする姿には達していないという。森ビルの手掛けた建物の中で訪れたことのあるのが、六本木ヒルズ、そして上海・浦東の上海環球金融中心(ワールドフィナンシャルセンター)。後者のディベロッパーが森ビルだとは知らなかった。

六本木ヒルズは、自分にとって、坂本龍一の"the land song"を聴ける近未来の建物である。建築や美術の教養がないため、クリエイティブな空間や経済とアートの融合等、メディアで取り上げられそうな話題にはついていけない。"the land song"は坂本龍一にしては分かりやすくポップなコード進行の曲で、篳篥(ひちりき)のメロディラインとデジタルサウンドがうまく共存した、なかなか飽きのこない曲である。ドライブにも良い。小学校6年生から坂本龍一が好きになり、東京に来て初めて六本木ヒルズのエレベーター前でこの曲を聴いたときは感動した。52階の展望台も素晴らしい。スカイツリーの展望台よりもスペースと窓が広く感じられるので好きだ。コロナ禍が明けたら美術館にも行きたい。

上海ワールドフィナンシャルセンターは、昨年、海外出張で訪れた。上海には5日滞在し、夜にも1回立ち寄った。センター計画時は浦東地区は未舗装の道路が続く寂れたエリアだったらしい。今では結構な数の高級車やバイクが猛烈な速度で行き交っている。あの時上海に行けて本当に良かった。次中国に仕事で行ける日がいつ来るのか分からない。上海にはやたらスターバックスがあった。スタバを追い越そうと(倒産してしまったが)luck'n coffeeなどテイクアウトのコーヒー専門店がたくさん登場した時期だった。中心部を離れると建設中のビルが目立った。外灘に象徴される過去の栄光に後ろ髪を引かれながらも、どんどん成長していくぞという勢いを感じる、上海はそういう街だった。


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そびえたつフィナンシャルセンター

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フィナンシャルセンター、上海タワー、金茂大廈(ジンマオタワー)を見上げる


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宿泊したホテルの部屋からの景色。黄浦江よりこっち側は浦東、向こう側は浦西。

参考

CHASM

CHASM

  • アーティスト:坂本龍一
  • 発売日: 2004/02/25
  • メディア: CD

沖縄・浦添ようどれ

アクセス

沖縄県浦添市ゆいレール那覇空港駅から浦添前田駅下車。徒歩10分ほどで到着。

覚え書き

浦添城(グスク)の跡地。小高い丘になっている。沖縄戦当時、上陸した米国軍と日本軍の激戦地となった場所。米軍は浦添城一帯をハクソー・リッジ(弓鋸の崖)と呼び、日本軍は前田高地と呼んだ。この戦闘の様子は映画「ハクソー・リッジ」に描かれている。とはいっても写実的な描写ではない。映画では崖は優に縦横100メートルを超える絶壁と、その先に広がる荒野が描かれている。しかし実際には、崖の落差はあるが、その先は芝生の生い茂った場所だった。たくさんの種類の亜熱帯植物も生えている。当時の写真を見ると米軍らしき戦車が走っているが、割と窮屈な戦場だったのではないかと思う。日本軍による怪我人や食料を格納するための壕の跡も残っている。

映画では描かれていないが、戦闘では両国の軍隊だけではなく、浦添の住民の約4割も犠牲になったらしい。近くの資料館では、当時を知る方のインタビュー動画が流れていた。まるで”ありったけの地獄を一つにまとめた”ような光景だったらしい。

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@ハクソーリッジ。眼下には市街地が広がる


浦添グスクは琉球の王統ともにその歴史を刻み、発展と衰退を繰り返しながら、沖縄戦で壊滅的な被害を受けた。現状の城壁はほとんど復元されたもの。当時、浦添グスク付近は日本軍の陣地として使われ、城壁なども採石されてしまったらしい。オリジナルはほとんど残っていない。北側の崖の中腹には、英祖王と尚寧王の眠る「浦添ようどれ」という王陵が存在する。英祖王は13世紀の鎌倉時代尚寧王第二尚氏)は江戸時代の王。浦添グスクはなかなか悲しい運命にあるらしく、1406年に王宮が首里に移転した以後荒廃、1609年薩摩藩島津氏の侵攻で焼き討ち、その後1945年の沖縄戦で破壊されている。

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崖に面して2つの墓が並ぶ

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復元された石積みの城壁


ところでこの「ようどれ」は琉球語で夕凪という意味らしい。静かで穏やかなイメージが「墓」を表す言葉として使われた。なんとも粋な古来の人の言葉遣いだろうか。

参考文献

沖縄の名城を歩く

沖縄の名城を歩く

  • 発売日: 2019/02/22
  • メディア: 単行本

ハクソー・リッジ(字幕版)

ハクソー・リッジ(字幕版)

  • 発売日: 2017/10/04
  • メディア: Prime Video