これまでに読んだエネルギー関連の一般書の中で一番面白かった。歴史を通じて人間がエネルギーをどのように利用してきたか俯瞰的な視点を得られる。2章を読むと頑張って熱力学を勉強しようという気持ちになる
火のエネルギー
人間は咀嚼や加熱など料理を行うことで、エネルギー密度の高い食事を取れるようになり、食べる量が減り、脳を大きくし、消化器官を小さくすることができた。
森林のエネルギー
日本では飛鳥時代から奈良時代にかけて約200年のうちに20回の遷都が行われ、建築需要により畿内の自然林が消え、アカマツの森に変容してしまった。
英国は国内の森林資源を急速に消耗するが、入植を開始したアメリカ北東部ニューイングランド地方では帆柱に最適なストローブマツの巨木の森を確保でき、英国海軍の軍事的優位を確立するに至る。
産業革命とエネルギー
- 英国の工業化により、奴隷制が破壊された。カリブ海のイギリス植民地にある砂糖プランテーション経営者「西インド諸島派」と呼ばれる圧力団体を組織して英国議会に働きかけ、関税をかけ英国内の砂糖を高値に設定していた。「マンチェスター派」は宗教界と連携して奴隷制に反対し、西インド諸島派を弱らせる。
- 蒸気機関は熱エネルギーを取り出す場所と消費する場所が同一である必要があった。電気の利用はエネルギー変換の自由に加え、場の制約からの解放をもたらす力だった。
肥料とエネルギー
- グアノはケチュア語で糞の意味であり、インカのケチュア族はグアノを畑に撒くとトウモロコシの収量が増えることを知っていた。インカ時代はグアノが取れる島には検査官が置かれ、鳥を殺すことは禁じられた。米国は1856年にグアノ島法を成立させ、どの国にも所属していない島100近くを自国の領土にし、ミッドウェイ諸島も含まれる。
- チリ硝石はそのままでも爆薬の原料になるが、NaとKに入れ替え、より反応性の高い硝石(硝酸カリウム)を化学合成する技術が開発され爆薬としての価値が上がった。
- 窒素は二酸化炭素と比べて水に溶けにくく、反応性も低いため、40億年前に海洋が現れたときから大気中に残り続けた。生物の光合成に使われることがなかった。
- 雷が発生すると放電エネルギーで窒素分子の三重結合が解け、雨に溶けて地上に降り注ぐことで植物は窒素を取り込むことができる。雷は大和言葉で稲妻。
- 窒素を動植物が固定化する方法は、一部の豆科の植物に共生する菌か、雷のエネルギーによる分離だけだった。それをエネルギーを大量投下して窒素を固定化することで人類と人類の食料となったトウモロコシ、小麦、米などの穀物の総量が増大した。
- C4型光合成(最初の有機化合物に含まれる炭素の数)であるトウモロコシは、単位面積あたりの成長のスピードが早く、収量が多くなる。
- 米国の2019年のトウモロコシ生産量データでは、国内消費の45%が家畜の飼料用、34%がバイオエタノールの燃料用、11%がコーンスターチやコーンシロップなどの工業用、食料利用は10%程度。バイオエタノールはEnergy Profit Rateが0.8程度で、製造のために投入されるエネルギーが得られるエネルギーを上回る。
エネルギー問題の哲学
- 人間の歴史は「時間を短縮すること」言い換えると「時間を早回しにすること」に価値を見出してきた。人類の価値基準が以下に頭脳偏重になっていたかの裏返しでもある
エネルギー問題と経済学の相性
- 一般の経済活動を行う経済学と相性が悪い。エネルギーのもつ経済的価値を正確に測ることが難しかったため。蒸気機関の能力を測る手法がなかったため、ワットは馬力(標準的な荷役馬が単位時間あたりに行う仕事の量)を考案した。これが現在の国際単位系SIになった。
資本という神
- 中世までに成立した宗教の多くは自然界のくびきを感じていたからこそ、来世に希望を見出すことでバランスを取ろうとした。