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東京湾から600kmの鳥島にアホウドリを見に行った

にっぽん丸に乗って鳥島へ

かねてからお世話になっている方から「鳥島を見に行くツアーがある」と聞き、迷わず参加を決めました。このツアーは商船三井客船「にっぽん丸」のクルーズです。私はスタンダードステートで約10万払って乗船しました。

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鳥島は東京から南に約600kmに位置する無人島であり、アホウドリの生息地であることや、ジョン万次郎が漂流したことでも知られている。吉村昭の小説や高橋大輔「漂流の島」などの書籍で江戸時代の漂流民の話が読めます。

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航路は東京湾を出発し、伊豆七島、八丈島、青ヶ島の左側を進み、鳥島を反時計回りに周遊します。有人島の青ヶ島からさらに約650kmほど南下すると小笠原諸島に到達し、その間に人間が住める規模の島は鳥島しかないため、言葉通り絶海の孤島と言えるでしょう。

鳥島の位置(出典:wikipedia)

鳥島クルーズの特徴

「にっぽん丸」の鳥島クルーズは過去にも企画されています。しかしコロナ禍直前の2019年のクルーズでは、鳥島付近の海が荒れていたため接近しての周遊は叶わず、結局船長の判断により名古屋方面に向かったと聞きました。そのため今回のクルーズは鳥島やアホウドリファンにとっては待望のものになったのだと思います。

クルーズの外海ならではのうねり、そして客層ではないでしょうか。東京湾を南下し、横浜ベイブリッジの高架下をくぐり、浦賀を抜けるとすぐに太平洋に出ます。外洋に出ると速度は30ノット(約56キロメートル)にまで上がります。波も高く、船内は時折まっすぐ歩けなくほど揺れます。8年前ににっぽん丸に乗船した際のインドネシアから東京に向かう船内を思い出しました。有人島から離れると周りには漁船やタンカーも見えなくなり、電波も入らなくなります。

客層も違います。デッキに出ると倍率の高い巨大なカメラを抱えた人が目につきます。首には双眼鏡、服装もウインドブレーカー、中には折り畳み椅子を持ち込む人もちらほら。アホウドリの観察と撮影に向けた準備に余念がない様子です。陸地を横目に内海をのんびり進むクルーズとは違い、レジャー感が少なく、目的志向性が高い感じがします。

鳥島レクチャー

鳥島到着前には、船内でアホウドリ研究の第一人者の長谷川博氏のレクチャーを聞くことができます。長谷川先生には、敬意を込めてアホウドリではなく「オキノタユウ」という呼称を使うと聞きました。

鳥島周遊

クルーズ2日目はいよいよ鳥島周辺を船で周ります。周遊当日は天候に恵まれました。11時半ごろから海上にアホウドリの姿が見え始めました。時折水面近くまで下降し、どうやら餌の魚を捕まえているようです。12時頃には船頭の先に島の姿がはっきりと見えました。船長からアナウンスがあり「13時から14時にかけて島を一周する」とのこと。少し曇っているが風は強くありません。

「にっぽん丸」から望む鳥島

鳥島は活火山の島。火山の山頂部が海面の上に飛び出しており、これまでに何度か溶岩を流出させながらその形状を変化させている。海に突如現れた崖のような形状をしており、気象観測所の廃墟付近以外は絶壁が続きます。今回は上陸はしないものの、かつての漂流民や気候観測所の職員は果たしてこんな岩のような場所にどうやって上陸するのか、上陸したとしても島の内部の平らなところまでどのように崖を進んでいくのか、遠くから見ただけでは皆目検討がつきませんでした。『漂流の島』の筆者も上陸にあたりザイルのトレーニングを受けたと書いてあります。それなりの登攀技術は必要なのだと思います。

アホウドリのコロニー

結局「にっぽん丸」は約40分ほどかけて鳥島を1周しました。鳥島にはアホウドリのコロニー(居住地)が大きく2か所、気象観測所の近くと島の裏手にあります。望遠レンズを使うとデッキからでもたくさんのアホウドリが群がっているのが見えた。ヒナは黒く、成鳥は白い。所々直立した成鳥の形をした人形が見えますが、これは繁殖率を上げるために設置されたデコイと呼ばれる模型です。「漂流の島」で発見された漂流民の洞窟跡は全く見つけられませんでした。海面の近くに洞窟のような窪みが見えたが、これも果たして洞窟だったのかどうかは分かりません。

周遊中のデッキには撮影するたくさんの人の姿がありました。私は特に性能の良いカメラももってはおらず、特段撮影したいものなどありませんでしたが、この僅か40分のために、往復約3日をかけて鳥島に向かう、と聞くとやはり価値あるものを目にした気分になります。400年前、米や材木の運搬中に遭難した日本人が流れ着いた島を、今こうして豪華客船の手すりに寄りかかりながら眺める。かつて人間が暮らした場所、アホウドリの狩猟や戦争、火山活動の活発化を経て、住めなくなった島と聞くと、やはり惹かれるものがあります。来てよかった。

最後に

鳥島を後にすると、船は東京に向けた航路を進みます。ふと船内の図書室で『11匹のねことあほうどり』の絵本に目が止まりました。子供の頃何度も読んだこの絵本にもアホウドリは登場していました。おなかをすかせたねこたちがアホウドリに案内され彼らの住む島に向かう。思わずページをめくった。確かアホウドリの現在の生息地は尖閣諸島と鳥島のはず。だとするとこの絵本に登場するのはどちらかの島かもしれません。