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GESHARY COFFEE ゲイシャ体験セミナー『精製による味の違い』

日比谷のゲシャリーコーヒーさんのセミナーに参加しました。講師は阪本義治さんでした。一昨年にスペシャルティコーヒーを飲み始めてから、生産国・地域とは別に「ナチュラル」やら「ウォッシュト」という言葉を目にするようになり、体系的に学ぶ良い機会だなと思い参加しました。当日は講話+8種類のコーヒーの飲み比べ+質疑応答という内容でした。

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gesharycoffee.com

精製(プロセス)とは何か

精製はプロセスとも呼ばれ、コーヒーチェリー(赤い実)の中からコーヒー豆を取り出す作業を指す。私たちが普段目にする黒いコーヒー豆は、下図のコーヒーチェリーの種子(種)を焙煎したもの。種子は外皮や果肉で周りを覆われているため、それを洗浄や各種加工、乾燥等によって剥がす必要がある。代表的な方法はナチュラル、ウォッシュト、その中間にあたるハニー等、そして近年注目されている発酵方法。

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ナチュラル(自然乾燥)

収穫したコーヒーチェリーから悪いものや腐ったもの、葉っぱなどを取り除く。その後、アフリカンベッドと呼ばれる高床式のベッドの上で短くても4~5日、長ければ2週間~1ヵ月寝かせて乾燥させる。乾燥させたコーヒーチェリーは、ドライミルと呼ばれる脱穀所で果肉や皮を取り除き、コーヒー豆となる。

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ナチュラルの特徴は、味に個性が出やすい。また化学物質を使用せず、廃棄物が少ない(脱穀所で出た皮は自然に戻る)ため、環境にやさしい。ブラジルのコーヒーほとんどナチュラル。自然乾燥がプロセスの大半なので、そもそも湿気が多い地域や、収穫期と雨季が重なる地域はナチュラルに向かない。

乾燥の途中でコーヒーチェリーをかき混ぜる農園もある。これは1つは放熱のため、もう1つは乾燥のムラをなくすため。ムラをなくすとは、水分値の高低をなくし、味のばらつきをなくすこと。まめに手を加えるのは良い農園。

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コーヒーチェリーは水分値が低くなるにつれて黒くなる。水分値が十分に低くなった(黒くなった)ことが分かると脱穀を行い、最終的に白い豆が出てくる。

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ウォッシュト

収穫まではナチュラルと同じであるものの、収穫後すぐに外皮と果肉を除去する点が異なる。外皮と果肉を除去すると、種子の周りに粘液質と呼ばれるヌメヌメした成分(梅干しや桃のようなもの)が残る。粘液質の除去のため、コーヒー豆を薬品の入ったタンクに入れ、一日漬けっぱなしにして、ヌメりを洗い流す。こうして綺麗になった豆を乾燥棚に置いて乾燥させる。乾燥が終わると、種の周りのパーチメント(薄皮)を選別し、保管した後に脱穀する。

ウォッシュトの特徴は、クリーンさと酸味の味わい。コーヒー豆を水に漬けることで、埃や塵など余計な汚れが取れる。また未熟な豆や虫を食った豆が水に浮くため、質の悪い豆を取り除ける。しかし専用の大型設備が必要であるためコストがかかる。また大量の水を使用するため、近くに水源地や灌漑設備が必要。湿気の多いアフリカや一部中南米で行われる。短い乾燥期間でもきれいな味わいが作れる。粘液質除去には薬品を含む水を用いるため、汚水を垂れ流しにすると生態系に深刻な影響が出る。レインフォレスト・アライアンスは、コーヒー農園が急増した地域で、ウォッシュトに用いる薬品の環境汚染を危惧した人が立ち上げた認証制度である。このマークは、適切な汚水の処理や環境に配慮した農園であることを証明するもの。

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上からコーヒーチェリーを流し、回転するローラーの下からコーヒー豆が出てくる。ホースで水をかけることで果肉や外皮を落ちやすくする。

ハニー

収穫・選別の後、外皮・果肉除去まではウォッシュトと製法。ウォッシュトとの違いは、粘液質を除去しないまま乾燥させる点。糖度を含む粘液質がコーヒー豆の甘さに寄与するという考え方。ナチュラルとウォッシュットのいいとこどりではあるものの、手間がかかる製法。粘液質が付いたまま乾燥させると、埃や塵が簡単に付き、虫も来やすい。粘液質が厚くついているか薄くついているかで乾き方が違い、ムラができる。

ハニーはコスタリカで広く行われている。コスタリカは中米の中では治安が良い。小規模で貧乏な農家ではなく、組織化された形で人を雇うことで手間のかかる工程を管理できる。

果肉にも一応味はあるが、果肉は非常に薄い。食べるというより舐める、チューチューと吸う感じ。果肉が付いていなかったり、付いていても甘くはないコーヒー豆だと、焙煎しても甘くはならない。

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粘液質の付着量によって、乾燥時の色合いが異なる。粘液質が多く糖度を含む箇所は乾燥時に黒くなる。

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右上がナチュラルプロセス(黒)、左下がウォッシュト(白)。イエローハニーは薄く粘液質が付いているもの。レッドハニーはなるべく多く粘液質を残したもの。粘液質の有無は、コーヒー豆の外見に違いとして現れる。

なぜ精製方法の違いが生まれるのか

まずは天候面。大量の水を必要とするとため、水資源の確保できない場所ではウォッシュトはできない。一方、湿度が高く、雨季が長い地域ではナチュラルはでききず、ウォッシュトでやるしかない。また、良い農園になればなるほど標高が高く、急斜面に立地している。このような場所だと大規模なアフリカンベッドが作れないため、少ないベッドで管理するような工夫をするようになる。中には周りの農家と合わせる、先祖代々の伝統的な手法を用いる、等深く考えていない農家も。

最近は味づくりのため、収穫するコーヒー豆の特徴に合わせた製法を選ぶ農家も出てきている。他の農園との差別化を意識し、付加価値を出すために製法を変える農家も。

発酵プロセス

コーヒーの周り付いている微生物を活性化させ、コーヒーの中の糖分を食べさせることで、香気成分やアルコール分を生み出す方法。グレープやパッションフルーツ等のトロピカル系、アルコール系の風味が生まれる。ただしコーヒーは200℃ぐらいの温度で焙煎するためアルコール分は残らず、香気成分だけが残る。料理で用いるワイン等と同じ役割。アルコール分を蒸発させ風味だけ残す。

アナエロビック(嫌気性発酵)

酸素を遮断した発酵タンクにコーヒーを入れる。酸素を遮断することで、コーヒーの中の微生物の多くが活性化する。彼らがコーヒーを食べ、香気成分が生まれる。

カーボニック・マセレーション

発酵タンク内の酸素を遮断するだけではなく二酸化炭素を加えると、より強い嫌気性が生まれ、微生物の動きが活発化する。ボジョレーヌーボーの製造に用いられる方法。ボジョレーヌーボーは収穫したものがすぐ市場に出る、フレッシュワイン。ブドウを房ごとタンクに入れ、二酸化炭素を充填させる。微生物の力で早く、強力に発酵を進める方法。この手法をコーヒーに転用したもの。

エアロビック(好気性発酵)

微生物の中には空気があっても活動できるものもある。

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発酵タンク。上部に蓋が付いている。細い管から二酸化炭素を充填させるとカーボニックマセレーション。

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ステンレスの発酵タンク。計器類(温度計、湿度計等)やカメラが付いている。中の様子を確認しながら工程を進める。

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プロセスが終了すると上からタンクがひっくり返る。そしてコーヒーを取り出す。人がわざわざひっくり返さなくてもよい。

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発酵タンクの内部。プロセスの序盤。コーヒーを水に漬けて微生物を活性化する。

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プロセスの終盤。微生物が食べきってしまい、果肉が残っていない。ウイスキーの樽のような香りがする。

感想

「アナエロビック」の製法の内容を知れたことが最大の収穫。最近1年ぐらいVERVEコーヒー等で名前を聞くことが一気に増えました。当日試飲したアナエロビックナチュラルはコニャックのような香り。フレンチのデザートと合わせると美味しいのではないかと思いました。

また非常に初歩的な話かもしれませんが、コーヒー豆とは果物の「種」に該当するものだとは知りませんでした(豆も種の一種なので用語が間違っている訳ではなさそですが本来はコーヒー「種」では?と思いました。)。だとすると他の果物(梅や桃など)の豆も同じように乾燥させて焙煎すればコーヒーのような香りが出るのでしょうか。