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植物性ミルクは牛乳を代替するか-環境負荷とナッジ-

カフェラテに適したオーツミルク

行きつけのコーヒー屋さんでオーツミルクの存在を知った。オーツミルクはオート麦(オートミールの原料)から作られる植物性のミルクである。試しにオーツミルクのカフェラテを飲んだみた。牛乳よりも後味がすっきりしている。ほんのりと野菜を水で煮だしたような香りもする。

昨年英国のコーヒーブランド「Minor Figures」からは、テクスチャー(質感)にこだわったラテ用のオーツミルクが発売されたらしい。スターバックスでは2030年までのCO2排出量50%減に向けた施策として、牛乳を植物性ミルク(アーモンド、ココナッツ、大豆、オーツ)に代替していく方針を表明している。*1 健康志向の高まりも相まって、動物性の食べ物を植物性に替える人々も増えているらしい。

環境にやさしいミルクとは

牛乳は植物性ミルクに比べると環境負荷が高い。環境負荷の高さとは、同じ量のオーツミルクの製造時と比べ、牛乳の製造に必要な水や排出される温室効果ガスの量、利用面積は大きい。特に乳牛のげっぷから発生するメタンガスは温室効果が高く、畜産業の比率の高いニュージーランド等では排出規制の対象となっている。

2018年のScience誌の論文では、ミルク、野菜、果物、砂糖など主要な40種類の食物のLCA(ライフサイクルアセスメント)評価を行った。LCAとは、食物や製品の原料調達から使用・廃棄時までのライフサイクル全体の環境負荷を定量的に評価したものである。

Poore, J., & Nemecek, T. (2018). Reducing food’s environmental impacts through producers and consumers. Science, 360(6392), 987–992.

上述の論文のデータを用いて、ミルクの種類別の環境負荷を比較したのが、下のグラフ*2である。

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ミルク200ml製造時の温室効果ガス、土地利用、使用水量の比較

比較されたミルクは、牛乳、ライスミルク、ソイミルク(大豆)、オーツミルク、アーモンドミルクの5種類。環境負荷は、温室効果ガスの排出量(CO2eq kg)、利用土地面積(㎡)、使用水量(L)の3種類の指標である。いずれも200ml製造する場合、排出量、土地面積、水のいずれの指標においても牛乳の値が高いことが分かる。確かに同じ量のミルクが消費される前提であれば、牛乳を植物性由来ミルクに替えれば、環境負荷の軽減につながりそうだ。

デフォルトと選択

このコーヒー屋さんでは、値段を変えないまま、ミルクのデフォルトはオーツ、オプションで牛乳を選べるようにしたらしい。デフォルトを植物性ミルクに設定し、消費者に健康や環境にやさしい選択を促す試みは、まさに行動科学におけるナッジ(Nudge)である。ナッジとは、人々が義務等の強制力ではなく、自発的に望まし選択をするに仕掛けのことである。新しいことを始めるよりも、現状(デフォルト)を維持する方が往々にして負担は少ない。選択は負荷を伴う。ならば現状(デフォルト)を変えるのが効果的だろう。

そもそもなぜ我々は牛乳を飲むのだろうか。小学校の給食か。北海道で酪農が始まったのも明治維新前後であるし、古くから牛乳を摂取する習慣はなかったのではないだろうか。仮に給食で飲む牛乳が植物性だったら、我々は大人になった後も植物性ミルクを飲み続けるのだろうか。

植物性ミルクは普及するか

植物性ミルクが一般消費者に普及するにはやや価格が高い。例えばオーツミルクは1リットル1,000円弱である。牛乳を1リットル200円弱で買う我々にとっては高級な代替品である。逆に言えば、なぜ牛乳はたったの200円で売られているのか、を考えるきっかけにもなる。牛乳はある種工業製品の極みのような側面があり、一頭の牛から継続的になるべく多量の乳を搾取するため、人為的な受精を行うらしい。パッケージに広がる青空と牧場とは対照的に、乳牛は狭いケージの中で一生を過ごす。良いか悪いかは別として、財としての価値の変わらない電気でさえ、エネルギー種によって価格設定を変える時代なのだから、多少価格が高くても植物性ミルクが選ばれる日が来てもおかしくはない。