長旅の始まる前にたくさんの仕事に追われる筆者の気持ちがよくわかる。旅の予定があるからこそ、限られた時間で必死に仕事をこなせるのではないかと思う。出発前の空港のロビー、ラウンジ、電源とWIFIを探しながら優先順位をつけて仕事を片付け、なんとか資料を作る、なんとかメールを出す。我ながら集中力が研ぎ澄まされた瞬間だと感じる。だいたいパッキングは前日の夜に初め、当日の朝に早起きして仕上げる感じなので、最初から完璧な準備は求めない。いつも何かを忘れる前提で準備をしている。
極寒の旅を続けていて一番感心したのは眼球が凍結しないこと。目の表面には絶えず体温レベルの水分が流れていて、その僅かな移動流動体が凍結を防いでいるらしい。わざと水分接種をやめて眼球の上を流れる水分をとめたりして目が凍ったらどんなふうになるのか一度ぐらいは試してみたかったが。
アイスランドでゆっくり離れた北米プレートとユーラシアプレートが地球の反対側で再びぶつかる場所に日本がある。その一部が日本のフォッサマグナだ。アイスランドと日本は巨大な二枚のプレートで繋がっているのである。
どうしても日本の風景との対比になる。日本は汚い。せっかくの自然の形状や季節の色がいい調和を見せているのに、至るところにあるサービス業などの建物や看板が汚い。
ゴールデンウィークに1週間アイスランドに滞在し、正確な数字は忘れたが合計で1,000km弱移動したと思う。変化はするもののただただ呆然と人を寄せ付けないような荒涼とした景色。突如現れる滝。これと似た場所がパタゴニアらしい。生物でたくさんの場所も良いが、荒涼さに惹かれる。案外砂漠なんかも自分は好きなのかもしれない。
1984年のソ連、冷戦時代ということもあり、ロシアの都市でも田舎でも自国の目下のありように満足している人には出会えなかった。(中略)みんな政府に対して不信感に満ちていて、数人が集まると政府への不満を言い合うのだが、途中でハッと気づいたように天井に向かって「いまのは冗談ですから」といちいち叫んでいた。
紀行の執筆は簡単なようで難しい。実際に体験したことを並べても面白いものにはならない。(中略)では紀行が面白くなるかどうかの分かれ目はどこにあるかと言うと旅の体験から何を選び取ってどう書くかが大きい。(中略)豊富な読書体験や旅の経験と照らし合わせながら旅先では持ち前の鋭い感性と観察眼を持って自分が面白いと思える対象を敏感に感じ取る。そして興味のアンテナに引っかかった対象については旅の後にも資料を漁ってとことん掘り下げる。