6月に八ヶ岳を訪れた際、『剱岳 点の記』と一緒にガイドの方に勧められた本。剱岳はすぐ読み終わったが、なかなかこちらは読み進められなかったが、沖縄への行き帰りの飛行機と宿で読んだ。家でスマホが手元にあると、どうしても読書に集中できず、ページが進まない。他にすることがない状況を作ることで、自分の脳や体が読書に向いた状態になり、自然とページがめくられる。読めない時に無理に読もうとしても消化できない。この本は特に、著者の世界観に没入しないと、文字をただ追うだけになってしまう。
実際に北八ヶ岳の白駒池や雨池近くを歩いたことで、ササを掻き分けて歩いていく著者の様子がイメージできた。徐々に道路や小屋が整備されることで、聖地が荒らされることに対する懸念を何度も何度も吐露している。目的地やルートの決まった登山ではなく、遊び場として、秘密基地としての魅力が描かれている。
後半の病気療養の件からは、文章がより明確な輪郭を持ってソリッドになった気がした。困難や苦痛が人の感性を研ぎ澄ませ、それが文章に滲み出ているのではないか。