Goodな生活

経済学→環境コンサル→データサイエンティスト

石川直樹(2009)『全ての装備を知恵に置き換えること』

『空へ』を読み終わり、一緒に山に登る友人が読んでいたのを思い出して買った。

垂直方向に移動する

経験しなくても情報が手に入る時代。YouTubeを開けば世界大半の国を訪れた人の動画が見れる。街並みや市井の人々の様子も想像できる。だからこそもっと身体的な経験を大事にする。水平方向だけではなく、垂直方向(3次元)に自分の肉体を移動させる。

物理を専攻した後輩に以前『浅水波方程式』の話を聞いたことがある。海は地球の表面の最も外側の薄い部分を覆っている。なので海水は垂直方向よりも水平方向の動きの方が大きく、単純化すると「浅い水」のようなもの。アフリカで生まれてから水平方向への移動してきた人類も、ほとんど水でできていると考えれば海の水と同じ流体。流体である我々はずっと昔から水平方向に移動してきた。水平方向と比べて垂直方向への移動は容易ではない。もちろん飛行機や筆者の取り組む気球といった手段はできたが、人間そのものが急激な高度の変化に耐えられるようにはできていない。

水平方向の上向きに移動すれば酸素が薄くなる。初めて富士山に登った時は高山病になり、頭痛と吐き気に苦しんだ。下向きに移動しても同じく海の中に入り十分な酸素がなくなる。今自分がダイビングで潜れるのはせいぜい25m程度。たった25m移動するのに酸素ボンベを背負い器材を使い、それでも呼吸が乱れて頭や歯や耳が痛くなる。いくら技術やインフラが発達したとして、やはり人間の身体的な限界は変わらない。でも身体的な痛みや危険を伴うからこそその場所から見える景色が美しく思えるのかもしれない。

世界は狭くするのは人間

本書の中でタリバン政権が登場する前のアフガニスタンについて書かれている。2009年に出された本の数十年前ということは1960,70年代の話なのか。昔は旅人にとってのオアシスだったらしい。ちょうど中学生頃から同時多発テロやブッシュ政権の侵攻の話題しか聞かないから旅行で訪れるイメージが湧かない。イランやイラクについても昔は旅行できたと聞いたことがある。昔は行けたのに今行けないと聞くとなんとも残念な気持ちになる。ロシアもウクライナも、今はイスラエルにも行けない。世界に平面的な空白は残っていないかもしれないけれど、人間が壁を作り出している。