本書「これでいいのか登山道 現状と課題」では日本の登山道の荒廃状況や各地での課題と取り組み、法制化に向けた動きについて、複数著者のオムニバス形式で整理されている。中でも印象に残ったのが、重信秀年氏による登山道のランキングを可能にする評価案である。登山道の評価結果が可視化されることで、登山者はコースタイムや景色だけではなく、整備されているかどうかという観点で登山を楽しむことができるようになるかもしれない。また、全国の登山道について優先的に改善が必要な箇所を特定するのにも役立つだろう。ワインやコーヒーと同じように、登山道にも味わいを評価するフレームワークがあれば、登山者はより自分好みの、魅力的な登山道を選ぶことができるようになるのではないか。
重信氏による評価案は下記5つの項目により構成されている。これは土木工学的な客観的な指標ではなく、登山者にとっての快適さや景観の美しさといった主観的な要素が含まれている。
- 歩きやすさ(草木による道の消失、雨水の流れによる侵食など)
- 安全、手入れ具合(標識、土留めの破損、橋や鎖場の老朽化など)
- 自然度(土や石の路面を良、セメント舗装などの路面を否とする)
- 景観(見晴らし、植物、水辺、歴史的建築物など)
- 設備(トイレ、休憩舎、水場など)
この項目に沿って登山の計画や登山後の振り返りをすることで、必要な準備物や登山道の比較をより立体的に行うことができるのではないか。
他にも本書には日本の修験道の歴史や明治以降にレジャーとしての登山が根付いた経緯も紹介されており、山好きに刺さる教養が得られた。
2021年に北海道・大雪山での登山道整備事業に参加して以来、自分にとって新たな山の楽しみ方が得られ、これからも何らかの形でこの事業に携わっていきたいと考えている。登山道の「目利き」としての力を養うためにも、まずは言語化が大切であり、この評価案を参考にしたい。