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【新しい山の楽しみ方】北海道・大雪山での登山道整備体験 #5 なぜ近自然工法と公共工事が相容れないのか

登山道整備体験の記事、5本目です。

登山道整備プログラムの詳細は1本目の記事をどうぞ。
www.goodnalife.com

8月4日(水)に大雪山・山守隊の理事を務める山口一男さんをゲストに招き、オンライン講習を行いました。印象に残った点をレポートします。

なぜ近自然工法が普及しないのか

7月17日、18日の第1回の実地講習そして実地講習の振り返り講習会を終え、今後の登山道整備のあり方として近自然工法に多いに可能性を感じました。自然と調和した美しさを持つ施工であることに併せて、コスト面でも従前の土木工事(公共工事)に対して優位性があるためです。例えば木の階段を作る際、資材として木材が必要になりますが、公共工事の場合は購入した木材をヘリコプターで現場近くまで運搬するため、資材費、輸送費が必要です(現場によっては輸送費が数百万かかる場合もあるそうです)。ここで現場近くで倒木を調達し、ボランティア活動によって整備を行う場合、必要な経費は明らかに違います。無償のボランティア活動に頼るのではなく、日当を含めても公共工事よりは安くなります。

色々と話を聞いていると、公共工事の費用のうちヘリでの輸送費の占める割合が大きいのだと感じました。ヘリでの資材運搬を前提にして、関連省庁へのロビイングを通して必要な予算の獲得に注力するよりも、限られた経費やボランティアの方の協力のもと、ミニマムな整備を定期的に行う、そしてその実績を多く作る方が建設的ではないかと思いました。

これまでにも国立公園の整備のルールが厳格であること、「感性」を重視する近自然工法と規格化・標準化が求められる公共工事の考え方が異なることは説明を受けてはいました。しかし例えば一定の条件をクリアすれば施工に自由度(柔軟性)を許容するとか、資材の現地調達によってコストを抑えられる点を打ち出すとか、何かやりようがないものなのかなとも思いました。あるいは近自然工法が普及することで脅かされる産業や雇用(施工業者の上・下流の取引先等)もあるのではないかと想像しました。やはり公共工事(従前の土木工事)と近自然工法とが相容れる点、相容れない点をきちんと理解したいという気持ちが強くなります。

なぜ公共工事と近自然工法が相容れないのか

8月4日(水)のオンライン講習会では、山口さんより公共工事の近自然工法の違い、日米の国立公園の管理の違いについて説明いただきました。

公共工事はある程度まとまった年数(3年など)と予算(数百万)を掛け、大掛かりな工事*1を行うものです。例え登山道の整備であっても、測量・設計・計画(予算配分)といったプロセスを経る必要があります。公共つまり税金を使って工事を行う以上は会計監査をパスする必要があり、そのためには設計図や計画が必要です。この点が近自然工法との明確な違いです。施工現場の状況に合わせて都度施工内容を変えていては、監査に通りません。

しかし過去には公共工事に近自然工法を組み込もうとする動きがあったようです。元々近自然工法はスイスの河川工事の技術です。30年ほど前に日本の河川工事で取り入れられたものの、結局公共工事の積算実務マニュアル*2には組み込めなかったそうです。やはり都度現場に合わせた施工方法である点、技術が標準化されず職人技を必要とする点などが、公共工事と相容れなかったそうです。

ただし公共工事にもいくつかのパターンがあり、例えば環境省の維持管理業務の場合は会計監査のパスはなく、ある程度自由度のある施工が可能なそうです。また環境省のOBや国立公園の研究者を中心に、登山道の整備に関する法律を作成する動きもあるそうです。

日米の国立公園管理の違い

山口さんからは日米の国立公園の整備の違いについてもお話いただきました。米国の国立公園の整備の特徴は、多数のボランティアが関わっている点です。トレイルクラブやシェラクラブといった自然保護活動を行う組織があり、大学生のボランティアに国立公園のキャンプ場管理などを依頼しているそうです。一方日本の国立公園はボランティアではなく行政が管理するものです。これは米国民の国立公園に対する「(文字通り)National、国民自らの公園だ」という意識が強さの表れだと聞きました。あくまで行政(政府)の役割は責任を肩代わりし、主体となって管理を行うのは国民(市民)であると。この管理には生物学者や社会学者といった専門家が同行することもあり、また施工に自由度のある(≒近自然工法)施工も行われているそうです。

米国の国立公園についてのおすすめ資料

米国の国立公園の法整備については、同じく今年北アルプス・雲ノ平で開催された登山道整備イベントの募集要項が大変参考になります。

kumonodaira.com

また国立公園への行政のかかわり方の現状については、東洋経済の記事が参考になります。お試しで会員登録すれば本文が読めます。
diamond.jp

この記事に雲ノ平山荘のオーナーの伊藤二朗さんのインタビューが掲載されています。元々地主が存在せず、国が買収して中央集権体制で管理を行ってきた米国と、所有権が錯綜した日本の国立公園の違いについて分かりやすくまとめられています。

読んでいただいてありがとうございました!

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*1:橋の設置など

*2:工事の見積もりに使用する資料。労務単価や材料単価が載っており、定期的に更新版が刊行されます