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経済学修士→環境コンサル→データサイエンス

【新しい山の楽しみ方】北海道・大雪山での登山道整備体験 #4 近自然工法は汎用性を有するか

北海道・大雪山での登山道整備の記事も4本目です。過去の記事はこちら。

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7月17日(土)~18日(日)の実地講習を終え、7月21日(水)に振り返り(オンライン講習)を行いました。振り返りで印象に残ったことを書きます。

答えは自然の中にある

実地講習を終え、プログラムを陰からサポートいただいたヒグマ情報センター員の方から「(私を含め)プログラムの参加者は岡崎さんに施工を学ぶという意識が強いのではないか」というフィードバックをいただきました。これはどういうことかと言うと、施工の正しさのジャッジを岡崎さんに求めすぎていた、つまり岡崎さんに施工の正解を求めるのではなく、自然を観察することであるべき施工を考えるのが本質ではないかという指摘だったと、私は理解しています。岡崎さんに学ぶのではなく、自然に学ぶ。自然と対話することで、どのような登山道がよいかを考える。

確かにこの指摘には思い当たる節があります。施工って習ってすぐできるものじゃないんですよね。いざ作業を始めると、どういう風に手を動かせばよいか分からない。そんな場面がいくつもありました。施工場所に着いたらまず、現行の登山道にどのような問題があるのかを確認します。使用する資材(木材、石)を念頭に置き、完成形のイメージを膨らませます。完成形といっても何か具体的な設計図や予定表を作成する訳ではありません。例えば一言「石を積む」と言っても、どんな大きさの石を、どれくらいの角度で、どこを他の石と接点をするか、すき間をどうやって埋めるか、いざ手を動かし始めるとたくさんの迷いが生じます。間違った作業をして出戻りをしたくない、何かセオリーに従って粛々と作業を終わらせたいという面倒くさい気持ちもあったのかもしれません。作業が一段落するごとに岡崎さんに確認を求めるような自信のなさを私自身も感じていました。

岡崎さんの師である福留脩文先生も生前「正解は自然の構造物の中にあり、正解は一つではない」と言われていたそうです。何かの教科書に則った、権威のある誰かに従った、そんな施工が果たしてあるべき姿なのか。まずは自然現象を観察する、という基本的なことができていなかったようです。

プログラム開催のための準備

次に、これまで長きに渡って登山道整備プログラム(イベント)を開催してきた岡崎さんから、プログラムの開催にあたって最低限主催者が行うべき準備について説明がありました。前日まで、当日の作業前、当日の作業中、当日の作業後の4つの時点において、それぞれの準備の内容や実施項目をリストアップしていただきました。

前日まで

今回は、施工の前日までに資材(木材)と道具(バール、ハンマー、クワ、カケヤ、チェーンソー、てみ、かご)は現場近くに用意されていました。また施工現場から川も近かったため、石も調達できるという算段だったらしいです。このような準備があったため、施工現場に到着してすぐ、作業を始めることができました。

当日の作業前

一番大切なのは施工現場付近の生態系を観察することだと聞きました。樹林帯なのか、高山帯なのか、周りにどのような植物があり、どの程度成長しているのか。例えば小笠原諸島の場合、外来種の植物に比べ在来種の植物が少なく、切ってはいけないそうです。

今回の実地講習では施工前にヒグマの姿を観察することができました。人間よりも力の強い生き物が住んでいる。ヒグマと遭遇する危険からか、警戒心とも畏敬の念ともとれない気持ちが人を謙虚にさせるのかもしれません。

当日の作業中

岡崎さんが強調されていたのは「施工作業の記録」です。施工を行ってしまうと、施工前の現場がどのような状態だったかは思い出せません。同じ位置から、施工前と施工後の現場の様子を記録することが重要です。実地研修の当日も、スタッフの方が三脚の上に設置したGoProとデジカメで施工の様子を撮影されていました。

当日の作業後

施工が終了したら、作業を記録し、「情報発信」することが大事です。ヒグマ情報センターには、荷揚げに協力してくれるボランティアのために、しょいこ(背負子)と15kgの木材が用意されています。しょいこを担いだ姿や木材を運ぶ姿を写真に収め、SNSで発信することで荷揚げや登山道整備の活動を多くの人に知ってもらうことができます。

役割分担の大事さ

実地講習を終えて私が感じたのは、役割分担の難しさでした。前述の話とも関連するのですが、特に2日目の午後の施工は、忙しく作業するメンバーを横目に今何をやったらいいのだろう、という「待ち」「手持無沙汰」な時間が生まれてしまいました。どんな施工現場であれ、全く同じ作業を複数人が行うことはほとんどないでしょう。作業を先読みして役割分担ができれば理想です。各人の完成形に対するイメージを共有しながら、徐々に落としどころを見つけていく。月並みな表現ではありますが自然、そして人との対話(コミュニケーション)が大事だと感じました。

近自然工法は汎用性を持つのか

第1回実地講習の1日目の夜の懇親会にて、岡崎さんにざっくばらんに質問させていただく機会がありました。私は初めて「近自然工法」の考え方を聴いてから、この施工方法が汎用性を持つのか疑問でした。工程をマニュアル化(パッケージ化)して、色んな登山道で施工を行ってもらう、技術レベルの基準となる認証制度(資格)を創設し近自然工法の専門家を育成する。マニュアルが策定され、岡崎さんと同じように施工を行える人が増えていけば、国立公園の整備ガイドラインに組み込むことができるのではないか。公共工事、つまり税金の使途の一つとして近自然工法による登山道整備があり得るのではないかと考えたのです。

一方で、汎用性を有するためには、明確な定義や基準が必要です。施工内容が近自然工法の定義を満たすかどうかを第三者が確認するためのチェックリストのようなものも必要になるでしょう。近自然工法には明確な定義はなく、

  • 生態系を維持する
  • 自然(状態)に近づける
  • 自然由来の資材を使う

といった要素を持つ施工方法です。

あえて明確な定義や基準を設けてしまうと、かえって画一的な施工になり、従前の土木工事と同じような施工になる可能性があります。近自然工法を普及させる意図により、かえってその良さが失われるパラドックスが生じます。登山道の荒廃の状況、周りの生態系、使える資材、そして人、その都度ふさわしい施工のあり方を考える近自然工法は、どこまで一ケーススタディの枠を出ないものなのかもしれません。これは実地講習が終わったあともずっと疑問で、頭に残ったままでした。
読んでいただいてありがとうございました!次の記事で続きを書きます。

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