Goodな生活

経済学修士→環境コンサル→データサイエンス

【新しい山の楽しみ方】北海道・大雪山での登山道整備体験 #3 大雪高原山荘付近での施工

登山道整備体験記 記事の3本目です。(こちらが1本目2本目
いよいよ初めての実地講習の日がやってきました。7月17日(土)と18日(日)の2日間、大雪高原山荘に宿泊し登山道整備を行います。

大雪高原山荘

実地講習の集合場所は、大雪高原山荘です。山荘を発着点とする沼巡りのコースが有名です。NHKのさわやか自然百景では、この沼巡りのコースから望める美しい雪渓や、この地に生息するヒグマの様子が紹介されています。
www.nhk-ondemand.jp

山荘までは未舗装の一本道を通っていきます。紅葉の時期はマイカー規制のため、バスに乗らなくてはいけません。未舗装の道路に入って間もなく、携帯の電波が通じなくなります。

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大雪高原山荘
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昭和天皇皇后両陛下行幸の記念碑

それでは活動報告いってみましょう。

1日目 活動内容

09:00 ヒグマ情報センターにてレクチャー

整備を始める前に、山荘のすぐ近くの大雪高原温泉ヒグマ情報センターでレクチャーを受けます。実地講習の説明と併せて、近辺に住むヒグマの生態や遭遇しないための工夫を学びます。沼巡りコースではヒグマをおびき寄せることがないよう、食事ができる場所が限られており、バーナーの使用も禁止*1されています。知床五胡を訪れた際も、コースに入る前にヒグマに関するレクチャーを受け、食べ物はジップロックに密閉するよう指示を受けました。ヒグマには出会わないことが大切です。そのためには声を出す、手を叩くなどしてヒグマにこちらの存在を知らせる必要があります。言われてみると、北海道出身の参加者メンバーは皆ザックに熊鈴を付けてます。やっぱ熊鈴大事なんですね。

09:30 沼巡りコースを出発

ヒグマ情報センターを出発し、ヤンベ分岐を左に、大学沼方面を目指します。

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出典:大雪高原温泉ヒグマ情報センター(https://www.higuma-center.com/blank-2

歩き始めてしばらくは樹林帯が続いており、さっそくヤブ蚊に襲われます。O型かつ飲酒習慣のある私の血液は彼らを大量に呼び寄せてしまいます。美味しいらしいです。服装は長袖、虫よけが必須だと学びました。

10:00- 13:00 沼とヒグマの観察

出発して間もなくヒグマの爪痕が見つかりました。

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ヒグマの爪痕

登山道近くに生えている大きな葉っぱは水芭蕉です。ヒグマも食べるそうです。

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登山道に生育する水芭蕉

滝見沼と緑沼です。

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滝見沼
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緑沼

夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色、と1年を通して別の姿を楽しめると聞きました。また紅葉の時期に訪れたいです。道中、大学沼近くの斜面にヒグマが見えました。借りた双眼鏡で確認すると、確かに4足歩行で動く黒い物体がありました。

大学沼の手前のえぞ沼は水量の増加により、木道が流されてしまっていました。幸い私は長靴を借りていたため、水の中を歩くことはできたものの、普通の登山靴の人は斜面の植物を伝い、なんとか歩を進めます。

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えぞ沼 木道が水で流されています
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えぞ沼 長靴で水の中を進み、木道を移動させます

12:30頃、大学沼に到着しました。雪渓の広がるスキー場のような広大な場所です。ここで昼休憩をとります。

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大学沼 離れた斜面にヒグマが見えました
13:30 施工現場(その1)に到着

大学沼から再び来た道を引き返し、緑沼を過ぎたあたり、ようやく今回の実地講習の施工現場に到着です。登山道が少し高く盛り上がったような場所になっています。

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施工現場(その1)

登山道を横断するように木の根が張られ、根と地面の間が空洞になっています。このままでは登山者が道を通るたびに、木の根が傷つけられ、両脇の土壌も削られてしまいます。土壌の浸食を防ぐため、

  • 登山者が歩きやすいように横断木を設置する
  • 根と地面の間の空洞を石で埋める

という2つの施工を行います。横断木は登山道の両端に掛ける木のことで、登山道では階段の役割を果たします。

ここで岡崎さんより横断木の設置について説明です。横断木を設置するには、木の両端と土壌が接する箇所を掘る必要があるのですが、このときスコップは使わずに、細いクワやバールを使って土を掘ります。スコップを使うと効率的に掘れる反面、堀りすぎることで木と土壌とのすき間が生まれてしまい、かえって横断木が安定しない事態も考えられます。木の直径に対してやや細い溝を作る、といった具合で掘るのを止め、木を設置した後にカケヤ(大きなハンマー)で上から叩き、圧を掛ける木が安定します。木の設置場所に動かせない根や石がある場合は、横断木の方向(左右)を入れ替えて逆にするなどの調整が必要です。

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クワを使って土壌を掘ります
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クワを使って土壌を掘ります
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カケヤを使って横断木を叩きます

横断木が設置できたらチェーンソーで横断木の表面の丸みを削り、表面を平らにします。これで登山者が横断木を踏んでも滑らず、歩きやすくなります。

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チェーンソーで横断木の表面を削ります
14:30 施工終了、下山

15時までに下山するため、14:30で一旦作業はおしまいです。残りは明日、横断木の設置の続き、そして横断木と地面の空洞に石や砂利を敷き詰めて埋めていきます。作業のイメージを膨らませながら、ヒグマ情報センターに戻ります。

入浴、夕食、懇親会

施工が終わると楽しい温泉と夕食の時間です。温泉で疲れを癒した後は部屋に戻り、大変豪華な食事をいただきました。大雪高原温泉は「日本秘湯を守る会」の会員なので秘湯ビールも飲めました。ここは山小屋ではなく温泉旅館かな、と思うほどのラグジャリーさです。こんな立派な食事にありつけるのだから、明日は頑張って仕事をしよう、という気分になります。夕食の後は岡崎さんをはじめとするスタッフの方々と参加者メンバーとで懇親会です。近自然工法という現場に即した柔軟性の求められる施工のあり方と、その一方でこの施工を普及、汎用化していく上での課題について、色々と考えさせられることがありました。懇親会での感想は次回の記事に書く予定です。

2日目 活動内容

06:30 朝食

昨日の夕食に引き続き、またまた豪華な朝食をいただきました。大雪高原山荘では宿泊者は湧き水で淹れたコーヒーが飲み放題です。このコーヒーは大変美味しい。

08:00 ヒグマ情報センターに集合、出発

ヒグマ情報センターに集合し、昨日の施工現場に向かって出発です。途中で今日の午後に着手予定の施工現場(その2)を通過しました。

09:30 施工現場(その1)に到着、石積み

今日は横断木の続きと、根と地面の間の空洞を石で埋める作業を行います。まず岡崎さんより石積みについての説明です。地面に石を積むと言っても、立方体のような安定して設置できる石が手に入る訳ではありません。大抵の場合は、平らな面の少ない歪な形をしています。今回は近くの川から石を引き揚げ、施工現場まで運びました。5kgから重くても10kg程度の石をプラスチックの箱に入れて運び、土砂も手編みで救って運搬しました。石を敷き詰めるポイントは、

  • 石の平らな部分を表面(上側)にすること
  • 複数の石を組み合わせて安定させること

です。

今回の施工現場の場合、表面(上側)が登山者の踏むところ、裏面(下側)が地面です。石を安定させようとすると、ついつい石の平らな部分を裏面にし、地面にしっかりと設置したくなります。ところがこの置き方だと、必ずしも表面(上側)が平らではないため、凹凸がある面が表面に来ると、歩きにくい道となってしまう可能性があります。これを避けるため石の平らな部分を表面にするのですが、これにより石が不安定にもなってしまいます。石の平らな面を表面にしながらいかに石のバランスをとるか。ここで大事になるのが複数の石の組み合わせです。石は一つ(単体)で安定する訳ではありません。一見地面に対して凹凸があり不安定に見える石であっても、隣の石とかみ合わせて使うことで、安定します。石同士の接点が3点あれば止まる(安定する)と考えます。いかに複数の石を組み合わせて、平たい表面を造るか。説明を聞いたときは目から鱗でした。しかしいざ実践しようとするとなかなかうまくいきません。目の前の石の形にとらわれ、全体のバランスを考えれなかったり、几帳面に表面を平らにすることだけを考えると、石を敷き詰めるというよりパズルのピースをはめる(置きに行く)感じになってしまい、スカスカな石積みになってしまったりします。

施行錯誤の後、石積みが終わると、その上から土砂を流し、石と石のすき間を埋めます。こうして施工現場(その1)の作業が終了しました。

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根と地面との空洞が埋まりました
11:45 施工現場(その2)に到着

続いて施工現場(その2)に移動します。地面と巨大な石との間の高低さが大きく、歩きにくくなっていた箇所でした。ここに基礎木と横断木を設置し、歩きやすいように階段を設置します。初めにメジャーを使って設置する木材の長さに目途を付けます。

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メジャーを使い基礎木の長さに目途を付けます

今回は予め木材は近くまで運ばれていました。施工現場近くで使えそうな木材を探すこともよくあるそうです。まさに現地調達。チェーンソーを使って基礎木を適切な長さに切り、先ほどメジャーで測った箇所に設置します。設置の際は大きめの石(10kg程度)を使って、重石(ストッパー)とします。同じ要領で横断木を設置し、木と地面の間に石を詰めていきます。この現場のすぐ脇に川があり、石を引き上げる人、引き上げた石を登山道に敷き詰める人に分かれ、作業を分担して進めます。

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基礎木と川から引き揚げた石を設置

川の水温はかなり低かったです。石や砂利をすくうために水に入れる手が悴み、痛みを感じるほどでした。施工現場(その1)と同様に、石を敷き詰めた後、上から土砂をかぶせ、すき間を埋めます。所々石の積みなおしも発生しました。石の役割は、登山道の表面を造るだけではなく、木曽木と横断木を安定させるための楔(くさび)です。例えば重量があるのにもかかわらず全く楔の役割を果たしていない、ただそこにあるだけの石のことを岡崎さんは「もったいない」と言われていた気がします。

こちらが完成図です。巨大な石に至るまでに2つの階段(ステップ)が出来、かなり歩きやすくなりました。

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14:00 施工終了、下山

これで第1回目の実地講習はおしまいです。少し名残惜しい気持ちもありながら、工具を片付け、ヒグマ情報センターに戻ります。センターに戻ると、スタッフの方よりジュースとスイカ、岡崎さんよりおかファームのトマトとトマトジュースのプレゼントをいただきました。
次回は実地講習の振り返りについて書きます。読んでいただいてありがとうございました!

*1:匂いに敏感なヒグマを刺激しないよう、カップラーメンなど匂いの発散する食べ物は持ち込み禁止