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北海道・大雪山での登山道整備プログラムに参加した

皆さま、登山道整備という言葉を聞かれたことはありますか。私もこのプログラムに参加して知ったのですが、読んで字のごとく登山者の歩く道を整備・保全する活動です。2021年7月~9月にかけて北海道・大雪山での登山道整備に参加したので、気づきや学びを簡単にまとめます。

登山道整備プログラムとは

今回参加したのはYAMAPとクラブツーリズム共催のプログラムです。オンライン講習6回、大雪山での登山道整備の実地講習3回を行いました。整備の講師は、一般社団法人 大雪山・山守隊の代表である岡崎哲三さんです。受講料は合計 160,000円(税込)です。

pages.yamap.com

プログラムのスケジュールはこんな感じです。

日時 場所 内容
7月7日㈬
19:30-21:00
オンライン ・ 大雪山登山道荒廃の現状
・ 登山道整備方法の紹介
7月17日㈯~18日㈰ 大雪高原温泉周辺 第1回実地講習
7月21日㈬
19:30-21:00
オンライン 第1回実地講習の振り返り
8月4日㈬
19:30-21:00
オンライン ・登山道整備イベント開催のための準備
・公共工事と近自然工法
8月7日㈯~8日㈰ 大雪高原温泉周辺 第2回実地講習
8月11日㈬
19:30-21:00
オンライン 第2回実地講習の振り返り
9月1日㈬
19:30-21:00
オンライン 登山道整備参加で得られた気づきの共有
9月11日㈯~12日㈰ 愛山渓・裾合平周辺 第3回実地講習*1
9月15日㈬
19:30-21:00
オンライン プログラム全体の振り返り


YAMAPアプリの通知でこのプログラムの存在を知り、参加を決めました。定員は15名だったものの、コロナの影響でキャンセルが出たこともあり、結局参加メンバーは7名でした。

大雪山はどこにあるのか

大雪山系は約60km四方の面積を有する、日本最大の国立公園です。アイヌの人々にはカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)と呼ばれあがめられてきました。旭岳を始めとする2,000m級の山が連なります。北海道の中心分、旭川と富良野のちょうと東側一体が大雪山系となっています。

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出典:大雪国立公園 層雲峡ビジターセンター(http://sounkyovc.net/visitorcenter/access

大雪山にはいくつかの登山口があります。今回は大雪山系の北部に位置する大雪高原温泉と愛山渓に集合し、付近の登山道を整備します。

オンライン講習で印象に残ったところ

登山道の浸食と日本の山の管理体制

大雪山の登山道の多くの箇所で浸食(雨風による浸食や登山客の踏圧による植生の切削)が生じている。大雪山の表面は樹高が50cm以下の矮性低木で広く覆われており、これら低木の間に登山道が作られている。元々植物の生えていた場所に登山道が作られたことで、植物と水と土壌のバランスが崩れ、浸食が進みやすくなる。これらの荒廃に対する修繕の速度が追い付かない。

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薬師岳(折立登山口から太郎平小屋までの道中)での浸食

また外国人登山客数も増加する中、英語対応の案内板や清潔なトイレの未整備といった課題もある。山には「利用」と「保全」という2つの視点があり、国立公園である大雪山には、「利用」のためのルール・制限、つまり登山客を呼び込んでお金を落としてもらう経済的な視点はあるものの「保全」のための仕組みは整備されていない。

近自然工法と土木の工法

上述のような登山道の浸食の現状と、管理体制を踏まえ、解決策の一つだと紹介されたのが「近自然工法」。元々福留脩文先生が河川工事で実践した工法で、それを岡崎さんが登山道整備に取り入れられた。近自然工法とは「生態系の底辺が住める環境を復元させる」という考え方。施工方法ではあるが、重要なのは「近自然」の概念や考え方を理解すること。私なりに講習の内容を元に近自然工法と、公共工事で餅られてきた従前の土木工法を対比させてみた。

特徴 コスト
近自然工法 ・自然に近づける
・自然に近い資材・方法を使う
・設計図なし(現場の状況に合わせた施工)
・経験や知恵や感性に依る職人技術
ボランティアによる木材の荷揚げ、
現地の資材の活用などにより安く済む
土木の工法 ・従前の施工方法
・あらかじめ作成した設計図に合わせた施工
・施工の途中で土壌や植生が失われることもある
(自然への感性の欠如)
資材の引き上げにヘリを使用すると数百万かかる

土木の技法を「理性」とするならば、近自然工法は「感性」の世界。設計書をベースに施工するのではなく、浸食の状態を確認し、周りの自然、景観との調和(バランス)、現地で手に入る資材、人間以外の生物への配慮を行いながら施工物の完成系をイメージする。コストについては施工現場によって千差万別であるため対比が難しいが、近自然工法の方が比較的安く済む場面も多いのではないか。もちろんチェーンソーや各種運搬資材などの設備は必要であるものの、木材や石材は施工現場付近で調達すると、外部の業者に発注する必要はない。また登山者のボランティアの方に協力してもらい荷揚げを行うこともできる。多額の資金を使ってヘリで運搬するよりも、登山者と協力して整備を続ける方が持続的なのではないか。

実地講習で印象に残ったところ

石積みの難しさ

3回の実地講習に共通して、登山道の階段の段差を作るための「石積み」が難しかった。例えば第1回の場合、下の写真のように表面(登山者の踏むところ)を平にするよう、地面に石を積みます。石を安定させようとすると、ついつい石の平らな部分を裏面にし、地面にしっかりと設置したくなります。ところがこの置き方だと、必ずしも表面(上側)が平らではなく、凹凸がある面が表面に来ると、歩きにくい道となってしまいます。これを避けるため石の平らな部分を表面にするのですが、これにより石が不安定にもなってしまいます。石の平らな面を表面にしながらいかに石のバランスをとるか。ここで大事になるのが複数の石の組み合わせ方。石は一つ(単体)で安定するのではなく、一見地面に対して凹凸があり不安定に見える石であっても、隣の石とかみ合わせて使うことで安定する。石同士の接点は3点あれば止まる(安定する)。いかに複数の石を組み合わせて、平たい表面を造るか。説明を聞いたときは目から鱗だった。実践しようとするとなかなかうまくいかなかったが。

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石積みを終えたら土砂をかぶせ、表面を平にする
役割分担の大事さ

もう一つが役割分担の難しさでした。ある施工現場では、忙しく作業するメンバーを横目に今何をやったらいいのだろう、という「待ち」「手持無沙汰」な時間が生まれてしまいました。どんな施工現場であれ、全く同じ作業を複数人が行うことはほとんどないでしょう。作業を先読みして役割分担ができれば理想です。各人の完成形に対するイメージを共有しながら、徐々に落としどころを見つけていく。月並みな表現ではありますが自然、そして人との対話が大事だと感じました。

登山道整備プログラムを終えて思ったこと

ピークハントだけではない楽しみ方

慌てて頂上を目指すのではなく、少しゆっくりしたペースで歩くようになった。自然というよりも自然を楽しめるように整備してくれた人に感謝するようになった。舌が肥える感覚。自分が整備を体験してみて「良い登山道」と「いまいちな登山道」を判断できるようになった。

デジタル化の進展と自然とのつながり

コロナでリモートワークが進展したこともあり、日本社会ではデジタル化が進んでいる。私も2021年はほとんど出社せずに仕事をした。自然とのつながりを人間が渇望しているように思える。その意味で登山道整備には可能性があると感じた。

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*1:北海道の緊急事態宣言のため中止