Goodな生活

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再エネは土地を食うエネルギーか-地表面積あたりの密度比較-

発電時のCO2排出量がゼロであることから、再生可能エネルギー(再エネ)由来の電気が近年急速に普及している。ここでは環境負荷ではなく、土地を有効に使えているのか、という観点から思ったことを書いてみる。

太陽光発電の弱さ

2012年のFIT(再生可能エネルギー由来電力の固定価格買取制度)の施行以降、国内では特に太陽光発電の普及が急速に進んだ。実家の近くの空き地や、関東郊外の山の斜面等、パネル(太陽電池)を目にする機会も増えた。太陽光は再生可能エネルギーの1種であり、発電時にCO2を排出しないため、クリーンな電源として、計画的に導入が進められている。

太陽光発電にはデメリットもある。太陽の沈む夜間や、日照時間が短くなる冬季には稼働率が落ちる。また天候の影響を受けやすく、発電量の変動が大きいため、需要を満たすために他の電源で調整を行う必要がある。併せて、河川の氾濫や土砂災害等への脆弱性も課題として挙げられる。

日本の土地利用制度とパネルの普及

この災害への脆弱性には、日本の土地利用制度が関係している。安田陽(2019)『世界の再生可能エネルギーと電力システム』によると、近代以降個人所有権の絶対性が高まり、原則として建築行為・開発行為は自由という考えが広がった。これにより、個人や企業の所有する土地であれば、森林を伐採して造成した土地や、パネルの設置に適さない急斜面であっても、パネルが設置されるようになった。遊休地にしておくよりも、買い手と価格が保証された条件で電気作りに勤しむ方が経済合理的だと言えるだろう。一方、欧米では建築不自由の原則が一般的である。個人所有地であれど自治体のルールに整合した場合のみ開発・建築が進められる。FIT制度では太陽光発電ゾーニングには厳格な要件が設けられておらず、太陽光発電の普及が、森林や生態系の破壊等別の環境問題を引き起こす可能性もある。

太陽光パネルを小型化すればよいのではないか、という意見もある。確かに住宅用屋根の上部に設置する分散型パネル等もあるが、これは小口需要を束ねる際にロスが生じてしまう。そもそもパネルが大型なのは、太陽光エネルギーは面積当たりの密度が低いエネルギーだからである。

同じ量のエネルギーを得るために必要な面積は

2018年に発表された米国の論文を紹介したい。エネルギー種別の地表面積あたりのエネルギー密度を推計した研究である。

John van Zalk, Paul Behrens,The spatial extent of renewable and non-renewable power generation: A review and meta-analysis of power densities and their application in the U.S.,Energy Policy,Volume 123,2018,Pages 83-91

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Jhon van Zalk and P. Behrens (2018) Fig.2

上図は、エネルギー密度(対数値)の箱ひげ図で、横軸はエネルギー密度(W/㎡)、縦軸はエネルギー種(一次エネルギー)である。

まず天然ガス原子力、石油、石炭等の化石燃料が上位に位置し、太陽光、地熱、風力、水力、バイオマス等再エネは押しなべて下位に位置する。水力のばらつきが大きいのは容量の巨大なダムが平均値を下げているためか。化石燃料原子力と比べて、再エネの方が同じ熱量を得るために必要な面積が大きいことが分かる。

気を付けるべきは、この比較にはエネルギーの調達可能性(手に入りやすさ)は加味されていない。例え面積が小さいと言っても、天然ガスを供給地から需要地に運ぶまでの輸送やエネルギー転換の手間、もちろんCO2排出量も考慮されていない。

産業革命前から持続的だった訳ではない

再エネの歴史にも触れたい。今井・橘川(2019)『LNG』では、産業革命前の大規模な環境破壊は、農地の急拡大と地表面積当たりのエネルギー密度の低い薪炭、牛馬力等の再生可能エネルギーに依存したことが原因だと指摘する。

江戸時代後期の日本では、森林面積が現在の2/3程度に縮小し、広範囲の傾斜地が裸になったことで、台風や梅雨による洪水・土砂崩れが発生した。19~20世紀半ばにかけて、地表面積当たりのエネルギー密度が高い石炭や石油が薪炭、牛馬を代替するようになり、森林植生を回復させた。ドイツでは自然林が20世紀以前に破壊されており、森林面積比率は日本の半分以下の3割、傾斜地は国土の1割、年間降水量は日本の3割~4割程度にまで減少している。本来の「自然」がほとんど存在しないことが、皮肉にも広大な地表面積を必要とする大型風力発電の開発を許す背景になっている。

エネルギーの種類と土地利用制度。土地本位制の広がりが、同じ面積で効率よくエネルギーを出力できる化石燃料の普及に一役買った、という仮説はやや飛躍が過ぎるだろうか。

面積はエネルギー比較の一つの視点になるか

先日の菅総理の所信表明にて、2050年CO2排出量ゼロの発言があった。国内のエネルギー政策の基本方針は3E+S(安全性(Safety)を前提とし、自給率(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時達成)となっている。日本はエネルギー自給率が低く、化石資源の多くを中東やオーストラリアからの輸入に依存するという制約下で、環境にやさしいエネルギーへの移行を進めることになる。原発の再稼働も簡単ではない中、再生可能エネルギーがこの役割の中心を担う。

2050年にCO2排出量ゼロを達成する社会では、エネルギーはどのように使われているのだろうか。最後に2020年に発表された論文を紹介する。

Schreyer, Felix & Luderer, Gunnar & Rodrigues, Renato & Pietzcker, Robert & Baumstark, Lavinia & Sugiyama, Masahiro & Brecha, R.J. & Ueckerdt, Falko. (2020). Common but differentiated leadership: strategies and challenges for carbon neutrality by 2050 across industrialized economies. Environmental Research Letters.

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Felix Schreyer et al. (2000) Figure 3

この論文では、EU、米国、オーストラリア、日本の4つの地域で、2050年のCO2排出量ゼロを達成するための電源構成を試算している。日本はその他の地域に比べ、太陽光と風力の比率が低い一方、CCS付きの火力の比率は大きい。つまり再エネ導入が進みにくい分、火力発電の排出をオフセットする措置を取らざるを得ない。ここには国土面積の狭さゆえ、他地域よりも再エネ導入が進みにくい、という日本の特徴が表れている。

国土の狭さや島国といった日本の地理的特殊性を盾にして、再エネ導入を否定するだけでは建設的な議論にならない。しかしながら、エネルギーの比較に土地や面積に関する指標が用いることもできるのではないか。社会に必要とされるエネルギーは当該時点の政策や市場に左右されるものであり、あくまで可変的なものである。