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実数の連続性の公理

はじめに

この記事では実数の連続性(continuity of real numbers)の公理について扱います。

高校数学では実数を「循環するものもしないものも含めた無限小数の全体」だと定義しました。この定義について、数直線上に書ける数、有理数と無理数を合わせた数、有理数はさらに整数、有限小数、循環小数に分けられる等のような説明や区分が与えられてきた訳です。

しかし、大学レベルの数学では実数を「いくつかの公理を満たす集合」だとより厳密に定義します。ここで公理(axiom)とは性質の意味です。いくつかの性質を列挙し、それらの性質を満たすものを実数全体の集合\mathbb{R}とする、という考え方です。

実数の公理

実数全体の集合\mathbb{R}とは、次の5つの公理を満たす集合です。

  1. \mathbb{R}上では0による除法を除いて、加減剰余の四則演算が自由に行える(\mathbb{R}は体(field)を作る)
  2. \mathbb{R}上では大小関係(全順序)が定義されている
  3. \mathbb{R}上では和と順序の関係が成立する
  4. \mathbb{R}上では積と順序の関係が成立する
  5. \mathbb{R}の部分集合のうち、上に有界かつ空でないものは、必ず最小上界を持つ(連続性の公理)

1は四則演算ができる、2は数には順序関係がある、という性質です。3,4は1.の演算と2.の順序の関係について述べたものです。3は「a > bならばa+c > b +c」、4は「a>0,c>0ならばac>bc」を意味します。5つの公理のうち1,2,3,4は、有理数全体からなる集合\mathbb{Q}においても成立する性質です。*1
したがって5つ目の連続性の公理こそが実数全体の集合\mathbb{R}を特徴付ける性質です。 

5に登場する「上に有界」と「最小上界」という言葉を簡単に説明します。集合Aを集合Xの部分集合だとします。集合Aが上に有界であるとき、Xの要素bAに属する任意のaについてa \leq bを満たします。このときbは集合Aの一つの上界(upper bound)です。上に有界な集合とは、順序の上の方に上界を持つ集合を表します。最小上界(least upper bound)とは、上界のうち最も小さい元を表します。集合Aの上界において、任意のAの上界xに対してb^* \leq xを満たすb^*です。集合Aに最小上界が存在するとき、それを集合Aの上限と呼び、supAと表します。

実数の連続性の4つの表現

連続性の公理はいくつかの方法で表現することができます。ここでは以下4つを簡単に説明します。

  • デデキントの切断の原理:実数全体の集合\mathbb{R}を2つの部分集合に切断するとき、その境界となる数が存在する
  • ワイエルストラスの連続の定理:上/下に有界な集合には上限/下限が存在する
  • アルキメデスの公理:自然数全体からなる集合は、上に有界ではない
  • カントールの区分縮小法の原理:長さがゼロにまで縮小していく閉区間の入れ子の列には、ただ1つの共通の要素がある

デデキントの切断の公理

まず1つ目です。

デデキントの切断(Dedekind cut)

実数全体の集合\mathbb{R}A,Bに切断すると、集合Aのどの数も集合Bのどの数よりも小さくなる。

言い換えれば、実数の全体を左組と右組に切断するとき、その境界となる数が必ず存在する、ということです。

実数全体の集合を切断した集合A,Bは以下のように表せます。


 {
 \begin{eqnarray}
 \mathbb{R} = A \cup B, \quad where  \quad A \neq  \phi,B \neq  \phi \tag{1}
\end{eqnarray}}


集合Aのどの数も集合Bのどの数よりも小さくなる、とは


 {
 \begin{eqnarray}
 \forall a \in A, \forall b \in B, a \leq b                      \tag{2}
\end{eqnarray}}


(2)の状態です。言い換えると、集合Aの最大値か、集合Bの最小値か、いずれかが一方のみが存在する、ということです。

この公理は、実数全体の集合\mathbb{R}においてのみ成立することを確認しましょう。例えば有理数全体の集合\mathbb{Q}であれば、その部分集合であるAが最大値をもたず、同じく部分集合Bも最小値をもたない、という状態が起こりえます。以下のように集合A,B を定義します。


 {
 \begin{eqnarray}
A &=& \{x | x^2 \leq 2\}  \tag{3} \\
B &=& \{x | x^2  > 2 \}         \tag{4}
\end{eqnarray}}


ここでx^2 = 2を満たすのは、x = \pm{\sqrt{2}}ですが、これは有理数ではないため、\mathbb{Q}に含まれません。すなわち集合A,Bのどちらにも含まれない数となってしまいます。(1),(2)の条件を満たしているものの、Aに最大値はなく、Bに最小値は存在しません。つまり切断の境界を規定する数が存在しない、という訳です。デデキントは、切断の境界が存在するという性質をもって実数が連続であることを示しました。

デデキントの公理と上限・下限の存在

デデキントによる実数の連続性から、集合の上限・下限という概念を得ることができます。
まずは有界な集合(bounded set)を定義します。

定数aMの上界である(Mは上に有界である)とき、

 {\forall x \in M, x \leq a} \tag{5}

また定数bMの下界である(Mは下に有界である)とき、

 {\forall x \in M, b \leq x}\tag{6}

と表されます。
Mが上にも下にも有界である場合、単に「Mは有界」だと表現します。気を付けるべきは(5),(6)には不等号だけではなく、等号が含まれている点です。仮に(5)が不等号だけだった場合、aは集合Mの上界ですが、Mの数ではありません。このときMには最大値は存在しません。等号があればaは集合Mの最大値かつ上界です。したがって上界の中ではなるべく小さい上界を(下界の中ではなるべく小さい下界を)把握することで、集合の特徴を掴むことができます。

ワイエルストラスの連続性原理

上述の上限・下限の存在に対して、次の定理が成立します。2つ目の表現です。

ワイエルストラスの連続性原理

  1. 上に有界な集合Mの上界には、最小値すなわちMの上限(\sup M)が存在する。
  2. 下に有界な集合Mの下界には、最大値すなわちMの下限(\inf M)が存在する。

連続性原理の1番目を証明します。

Mの上界全体の集合をB、それ以外をAとします(数直線上の左側にA、右側にBの集合を作ります)。a \in A, b \in Bならば、a < bです。aMの上界ではないため、上界の定義「\forall a \in A, x \leq a」の否定を表すことで「\exists x \in M, a < x」が成立します。また、b \in Bなので {a < x  \leq  b} したがってa < bが成立します。ここに実数の切断(集合A,B)が生まれます。

デデキントの公理より、Aの最大値かBの最小値のいずれか一方だけが存在します。連続性原理の1番目ではBの最小値の存在を表しています。ここでAの最大値、\max Aのみが存在すると仮定すると、\max AMの上界には属さないため、「\exists x \in M, \max A < x」が成立し、ここで\max A < \alpha< xを満たす\alphaをとれば、\alpha \in Aとなり、\max AAの最大値ではなくなります。この矛盾をもって集合Bには最小値が存在する、ことが言えそうです。連続性原理の2番目も同様に証明することができます。

以上、デデキントの公理から出発して連続性原理を示しましたが、連続性原理からデデキントの公理を示すこともできます。

実数の切断(A,B)について、Aは上に有界であるため上限(\sup A)が存在します。\sup A \in Aのとき、\sup A = \max Aが成立します。\sup A \in Bのとき、\forall \epsilon >0, \sup A - \epsilon < xを満たすx \in Aが存在し、 \sup A - \epsilon \notin Bであるため、\sup A = \min Bとなります。以上より実数の切断(A,B)があれば、Aの最大値かBの最小値のいずれか一方だけが存在する、ことを示すことができました。

したがって、デデキントの切断の公理とワイエルストラスの連続性の原理は同じことを言っているにすぎない、と分かります。

有界な単調数列の収束

上限・下限の存在定理を踏まえ、有界な単調数列の収束を示すことができます。

単調増加な数列{a_n}は、 {a_1  \leq a_2  \leq  \cdots \leq a_n}のように表すことができます。ここで集合M = \{a_n\}が有界であるとき、\sup M = \alphaが存在し、 {\forall \epsilon > 0, \exists a_m \in M, \alpha - \epsilon < a_m}が成立します。{a_n}は単調増加なので、 {\alpha - \epsilon < a_m  \leq a_{m+1}  \leq  \cdots \leq a_n \leq \alpha }、すなわちn > mを満たすすべてのnについて、\alpha - \epsilon < a_n < \alphaが成立するため、|a_n - \alpha| < \epsilonが成立します。これは\lim_{n \to \infty} a_n =  \alphaと同値であり、有界な単調増加数列の収束を示すことができました。単調減少の数列の収束についても、同様に証明ができます。

アルキメデスの公理

アルキメデスの公理は、ワイエルストラスの実数の連続性の原理から導出できます。これが3つ目の表現です。

アルキメデスの公理


hが正の定数であるとき、任意の正の数Kに対して、 {nh > K}となる自然数n \in \mathbb{N}が存在する。すなわち {M = \{nh | n \in \mathbb{N}\} }という集合は上に有界ではない。

h=1とすると、任意の正の数Kに対して、 {n > K}となる自然数n \in \mathbb{N}が存在する。すなわち、
 {N = \{n | n \in \mathbb{N}\}}という集合は上に有界ではない、と言い換えることができます。

これを背理法を使って証明します。集合Nが上に有界である、と仮定します。ワイエルストラスの定理により、\sup{N}=\alphaが存在し、


 {
 \begin{eqnarray}
\forall \epsilon > 0, \exists x \in N, \alpha - \epsilon < x \tag{7}
\end{eqnarray}}


が成立します。xは自然数です。\epsilon > 0は任意であるため、特に\epsilon=1としても問題ありません。すると、

 {
 \begin{eqnarray}
\alpha - 1 &<& x  \tag{8} \\
\alpha &<& x+1        \tag{9}
\end{eqnarray}}

 x+1も自然数であるため、x+1 \in Nが成立し、これは\alpha = \sup{N} に矛盾します。したがって集合Nは上に有界ではありません。

カントールの区間縮小法

有界な単調数列の収束の定理より、区間縮小法の原理を導くことができます。

カントールの区間縮小法

有界閉区間の列、I_n = [a_n, b_n], n\in  \mathbb{N}が縮小列である、つまり\forall n \in  \mathbb{N}, I_n \in I_{n+1}となっているとき、 \bigcap_{n \in \mathbb{N}} {I_n} \neq \phiが成立する


区間の両端については、 {a_1  \leq a_2  \leq \cdots \leq a_n \leq b_n \leq \cdots \leq b_1}と、\{a_n\}は単調増加数列、\{b_n\}は単調減少数列となります。

また、 {a_1  \leq  a_n \leq b_n \leq b_1 \therefore a_n \leq b_1, a_1 \leq b_n}、すなわち\{a_n\}は上に有界、\{b_n\}は下に有界となるため、\lim_{n \to \infty} a_n =  \alpha\lim_{n \to \infty} b_n =  \betaが存在します。

さらに \lim_{n \to \infty} (b_n -a_n) =  0  という条件がある場合、


\begin{eqnarray}
0 = \lim_{n \to \infty} (b_n -a_n) = \lim_{n \to \infty} b_n - \lim_{n \to \infty} a_n = \beta -  \alpha \tag{10} 
\end{eqnarray}

となり、\alpha = \betaが成立します。

したがって、すべての閉区間に含まれるただ一つの共通要素が\alphaとなります。

*1:\mathbb{R}\mathbb{Q}に包含されます。