
労働政治ー戦後政治のなかの労働組合 (中公新書 (1797))
- 作者:久米 郁男
- 発売日: 2005/05/26
- メディア: 新書
酒の席で労働組合の話題になり、勧められたもの。
少数の特殊利益団体が、大多数の一般市民の犠牲の上に利益を享受すると問題視(ブキャナン、オルソン)。一般市民は損得(コストと利益)計算で合理的に行動(フリーライダーの存在による集合行為問題)。
民主的政治制度は競争を生むため効率的な市場だと肯定的な見方(ウィットマン)。利益団体の役割は政治家が決定する際の情報収集コストを軽減すること。ただし多数派を代表する組織の結成、利益の組織化のコストが低いという前提。
行政改革の推進にあたって、民間の労働組合からの支持調達に注力した中曽根内閣(国鉄分割民営化)、一般世論に支持を求めた小泉内閣(道路公団改革)。民間労働組合は選択要因や強制により集合行為問題を解決。一方、一般国民は支持集団として組織するには集合行為問題が立ちふさがっている。
利益集団は政治家に情報を提供することで政策決定の質を高める(ウィットマン)。経済合理的な改革政治を進める上で民間労働組合の支持を集めることは、現実の政治過程で支持を集めている政策を実現するためにも、その改革を独りよがりではなく望ましいものにするためにも有用な戦略。
利益団体=大企業、政治家=機関投資家、と読み替えられるのではないだろうか。つまり業界団体から政治家に向けたロビイング活動は、企業から機関投資家や株主に向けた情報開示(ディスクロージャー)とも読める。多数の企業に出資する投資家は、企業の情報をくまなく調べ一律の基準で比較・判断する時間などない。科学的な方法ではなくても、業界団体の発行するレポートや業界紙は政治家に対する効率的な情報伝達手段ともなりえる。ある種言ったもの勝ちともいえる。
仮に『労働組合の経済学』という本があるならば、本書の1,2章は含まれて然るべき内容。労働組合という経済主体を、政治学と経済学の両面から端的に説明している。読み終わってから気づいたが、著者の先生の別の本を学部時代に読んだことがあった。当時社会科学の方法論を定量と定性の二元論で捉えていた自分にとって、因果推論という考え方で両者の橋渡しをするアイデアは画期的だった。

- 作者:久米 郁男
- 発売日: 2013/11/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)